新株予約権発行における上限問題の実務対応と発行手続き

2024/10/22その他

新株予約権発行における上限問題の実務対応と発行手続き

 新株予約権は、企業にとって株式の将来発行を約束する権利を付与する仕組みで、従業員のインセンティブや資金調達手段として広く利用されています。しかし、新株予約権の設計段階で発行可能株式総数の上限に達してしまうことが発覚するケースも少なくありません。この問題にどう対応すべきかを検討します。

発行可能株式総数とは

 発行可能株式総数とは、会社が定款で定める「発行できる株式の総数」です。この数には、すでに発行済みの株式数も含まれ、会社法で定められた範囲内で自由に設定できます。しかし、新株予約権の行使により発行される株式がこの上限を超える場合、発行可能株式総数を増やす手続きが必要になります。

問題の発覚

 新株予約権の設計中、予約権の行使によって発行される株式が、定款で定められた発行可能株式総数の上限に達する、あるいは超過するという問題が発覚した場合、これは企業の資金調達やインセンティブ制度の設計に大きな影響を及ぼします。

(上限に達することで発生するリスク)

  • 新株予約権の発行自体が不可能になるため、既存の資金調達計画やインセンティブ制度に支障をきたします。
  • 株式発行の余地がなくなることで、将来的な成長戦略に悪影響を及ぼす可能性があります。

解決策

 このような問題が発覚した場合、企業は迅速かつ適切に対処する必要があります。以下、主な解決策を紹介します。

  • 定款の変更による発行可能株式総数の増加

 最も直接的な解決策は、定款を変更して発行可能株式総数を増加させることです。定款変更は株主総会の特別決議を要し、株主の同意を得る必要があります。このため、計画的な対応が求められます。

手続き:次回の株主総会に議案を追加するか、臨時株主総会を開催して特別決議を得ます。

実務的な注意点:発行可能株式総数を増やす際には、将来のさらなる発行を見越して、余裕を持った設定を行うことが推奨されます。

 なお、公開会社においては、定款を変更して発行可能株式総数を増加させる場合、定款変更の効力が生じた時点における発行済株式総数の4倍を超えることはできません。(会社法第113条)

  • 新株予約権の設計や数量の再調整

 もし定款変更がすぐに行えない、または株主の承認を得られる見込みが立たない場合、次善の策として新株予約権の発行数や条件を調整することが考えられます。

発行数の削減:上限に達しない範囲で発行可能な株数を見直します。

段階的な発行:数回に分けて新株予約権を発行するなど、柔軟に対応できます。

  • 行使開始時期をずらした新株予約権の発行

 発行可能株式数の上限に達する問題に対処するため、2つの新株予約権を同時に発行し、それぞれの行使開始時期をずらすことで解決する方法があります。具体的には、最初の新株予約権はすぐに行使できるように設定し、追加の新株予約権は定款変更が承認された株主総会の特別決議後に行使が可能となるように設計します。

手続き:2つの新株予約権を同時に発行しますが、行使開始時期を異なるタイミングに設定します。発行可能株式数の範囲内で行使できる新株予約権は即時行使可能とし、上限を超える部分は、株主総会での定款変更が承認された後に行使が開始されるようにします。

実務的な注意点:この方法により、新株予約権の発行手続きを効率化しつつ、発行可能株式数の上限を超えないよう調整が可能です。さらに、将来の定款変更を前提とした行使スケジュールを組むことで、企業は成長戦略を支援しながら柔軟に株式発行を進めることができます。

最後に

 新株予約権の設計において、発行可能株式総数の上限に達する問題は避けて通れない課題の一つです。このような事態に直面した際、企業は迅速かつ適切に対応し、必要に応じて定款変更発行条件の調整を行うことで、将来の成長を阻害することなく計画を実行に移すことができます。適切な法務・会計のサポートを得ながら、戦略的に対応していくことが、企業の成功を支えるカギとなるでしょう。

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