「プロ向けだから大丈夫」は危険?適格機関投資家等特例業務の勘違いと落とし穴
「うちは一般向けじゃないので、登録しなくていい」
「プロ相手だから規制も緩いし、特に問題はない」
こうした“勘違い”のままファンドビジネスを展開し、後に重大な法令違反として行政処分を受ける事業者が後を絶ちません。
今回は、適格機関投資家等特例業務(いわゆるプロ向けファンド)を利用する際に見落とされがちな実務上の注意点を整理します。
「適格機関投資家等特例業務」とは何か?
これは、一定の条件を満たすことで投資運用業や第二種金融商品取引業の本登録を受けずに、限定的に集団投資スキームを運営できる制度です。
具体的には、以下のようなポイントが制度上求められています。
- 適格機関投資家(プロ投資家)を1名以上含めることが必要条件
- その他の出資者(特例業務対象投資家)は49名以下に制限
- 所定の届出書類を内閣総理大臣(財務局)に事前に提出する必要がある
「特例業務だからラク」と思ったら要注意
適格機関投資家等特例業務は、通常の登録制度に比べて参入ハードルが低く見えるため、
- スタートアップによるファンド立ち上げ
- 節税スキームや海外不動産投資のファンド化
- 富裕層向け商品としての私募組成
などに活用されがちですが、実務上は次のような誤解・違反が非常に多く見られます。
よくある“誤認・違反”パターン
- 適格機関投資家が1名もいない状態で届出している
→ 明確な制度要件違反。特例が成立しておらず、業として無登録営業している扱いに。 - 出資者が“実質的に50名を超えている”にも関わらず49名ルールの適用を主張
→ 実務では“出資の分割”や“法人分け”も人数カウント対象となる可能性あり。 - 契約内容やリスク説明が不十分なまま勧誘・運用
→ 「プロ向け」であっても、一定の説明義務・不実表示の禁止は免除されない。 - 届出後の変更届を怠っている(例:業務開始日・構成員変更など)
→ 継続的な義務違反として、行政処分の対象になり得る。
実際にあった処分例でも問題視されたのは…
- 適格機関投資家の“名義借り”や“形式的参加”
- 特例届出を出していたが実態としては公募に近い形態だった
- 届出後に放置し、業務報告書も提出していなかった
→ こうした事例は、形式的には特例届出を出していたとしても、「実質的には登録制業者と同等の責任がある」とされて処分されています。
「プロ向けだから自由」は制度的に成立しない
適格機関投資家等特例業務は、たしかに制度上「登録を要しない」スキームとして設計されていますが、
それはあくまで厳格な届出・要件遵守・人数管理が前提です。
「とりあえず特例で出しておけばセーフ」
「適格機関投資家の肩書を使えばクリアできる」
そうした発想のままでは、想定以上の法的リスクと行政対応を招く可能性が極めて高い制度でもあります。