ファンドの分別管理義務とは?名義口座の設計ミスが招く重大リスク
なぜ分別管理がこれほど重要視されるのか?
適格機関投資家等特例業務を活用したファンド運営において、出資金の管理方法は制度的に極めて重要なポイントです。
特例業務の届出者は、金融商品取引法に基づき、出資者から預かった資金と自己の資産を厳格に分けて管理(=分別管理)する義務を負います。この原則が守られていないと、無登録営業・資金詐取・脱法スキームと疑われる重大なリスクに直結します。
分別管理義務とは?
金融商品取引法第43条の2により、ファンド運営者は以下を行うことが義務付けられています
- 投資家からの出資金やファンド資産は運営者の資産とは別の名義で管理
- 原則として、ファンド用の「別段名義口座」で出資金を受け入れる
- これに違反する場合、有価証券等管理業務違反や虚偽記載に該当する可能性あり
よくあるNGパターン
パターン1:自社の通常口座で出資金を受け取る
→ 明確な分別管理義務違反です。ファンドの資金と自社資金が混同され、破綻時に出資金が保全されません。
パターン2:口座開設が間に合わないため、代表者個人口座に仮入金
→ 極めて危険です。不法な資金集積スキームとみなされるおそれがあります。
パターン3:弁護士や外部関係者の名義口座(いわゆるエスクロー口座)を使う
→ 金商法上の第三者預託が許容されるのは、有価証券等管理業務を行う登録業者に限られます。
正しい口座設計とは?
投資事業有限責任組合(LPS)の場合
- 組合契約書の締結
- 商業登記簿に「ファンド名称」で登記
- 金融機関に「組合名義口座(別段口座)」を開設
- 出資者からの入金はこの口座以外では受け取ってはならない
※「〇〇投資事業有限責任組合 名義口座」または「〇〇投資事業有限責任組合 業務執行組合員××株式会社 代表口座」などの形式が多いです。
適格機関投資家が最初に出資することとの関係
出資金の順番と分別管理義務は密接に関連します。
- 適格機関投資家が出資する前に自社口座に資金を預かると違法
- ファンド名義の別段口座が開設できていない状態で特例業務対象投資家から資金を受け取ると重大違反
つまり、「とりあえず振り込んでおいてもらう」という軽い判断が、制度違反となりうるのです。
実際の行政処分事例
財務局や証券取引等監視委員会は、以下のようなケースで業務停止命令・届出取消・社名公表を行っています:
- ファンド用の名義口座が存在しなかった
- 出資者の資金を代表者個人口座に預けていた
- 分別管理体制の整備がなく、運営資金とファンド資金が混同されていた
銀行側の対応にも注意
- 金融機関によっては、LPS名義口座の開設に時間がかかる
- 組合契約書と登記事項証明書の整合性が求められる
- ネーミングや業務執行者の署名権限に関して、追加書類を要求されることも
よって、ファンドのスケジュールに間に合わせるには、早期に口座開設準備を進める必要があります。
まとめ:分別管理は「信頼されるファンド」の最低条件
適格機関投資家等特例業務は、少人数のプロ向けファンドとして簡便な制度が用意されていますが、それだけに最低限のルールは厳格に守らなければなりません。
とくに「お金をどこに・どの名義で預かるか」は、投資家の信頼にも直結します。
分別管理義務を怠ることは、制度の根幹を揺るがす違法行為となりかねません。
ファンド設計では、資金管理の体制構築と実務運用こそ、最優先でチェックすべきポイントです。