ファンド契約書には何を書くべきか?運用報告・記録義務をめぐる条項設計の実務ポイント
なぜ契約書に「運用報告義務」の条文が必要なのか?
適格機関投資家等特例業務(63条業務)において、届出者には、出資者への運用報告書の交付義務や勧誘・契約に関する書面の記録保存義務が課されています。
これらは金融商品取引法および関係内閣府令、さらには総合的な監督指針に基づく「行為規制」の一環です。
そのため、ファンドの出資契約書(例:LPS契約書、TK契約書)にも、投資家保護の観点からこれらの義務を適切に条文化しておくことが望まれます。
実務上、契約書に記載すべき主なポイント
1.運用報告書の交付義務に関する条項
【記載例(抜粋)】
業務執行組合員は、毎事業年度終了後●か月以内に、本組合の出資対象事業の運用状況、収益状況その他必要事項を記載した報告書を、各組合員に対して交付するものとする。
【補足事項】
- 「年1回」「四半期ごと」など頻度を明確に
- 報告方法(紙/PDF/マイページ)も併記
- 交付日を基準にした義務履行期限を明記
2.契約締結前・締結時書面の交付についての同意確認
【記載例】
本契約の締結に先立ち、業務執行組合員は、投資対象、リスク、手数料等の内容を記載した契約締結前交付書面および契約締結時交付書面を組合員に交付し、組合員はこれを受領したことを確認する。
3.記録保存・閲覧に関する条項
【記載例】
業務執行組合員は、出資者との本契約に関する交付書面、出資金の払込記録、運用明細等を、契約終了後●年間保存するものとし、組合員の請求がある場合には合理的範囲で閲覧に供する。
誤解されやすい注意点
- 契約書に明記がなくても法令上の義務は課されています(=書いてなくても違反になりうる)
- 契約で明記することにより、投資家からの信頼・後日のトラブル回避にもつながります
- 報告義務を「努力義務」などと緩和して書くことは避けるべきです(監督指針違反の懸念あり)
実際に指摘された例(行政対応)
過去の行政処分・注意喚起では、以下のような問題点が指摘されました
- 報告義務を契約書に明記していなかったため、報告未実施が「組合員の期待に反する」と判断された
- 契約締結時の書面交付が不十分で、「契約の内容が適切に理解されていなかった」と評価された
- 記録保存の体制が明文化されておらず、ファンドが清算された後に「何も残っていない」状態に
契約書は行為規制対応の「盾」
特例業務スキームは、届出制度でありながら金融商品取引業者並みの行為規制が課されており、契約段階での文書整備と条項設計がリスクヘッジの鍵となります。
運用報告・書面交付・記録保存などの各義務については、あらかじめ契約書に明記しておくことで、出資者との信頼関係構築と当局対応の両面で効果があります。
「適格機関投資家だから簡易でいい」という油断は禁物です。
小規模なスキームであっても、契約の設計こそが制度適用の土台になります。