上場会社における第三者割当増資と金融商品取引法の実務
第三者割当は原則「募集」―金商法の適用が中心になります
第三者割当増資は、会社が特定の第三者に新株を割り当てて資金調達する行為であり、金商法上は発行者による有価証券の「募集」に該当します。
また、自己株式の処分も「売出し」ではなく「募集」に該当します。したがって、有価証券届出書/有価証券通知書の提出要否、目論見書の交付要否など、金商法の開示・交付規制が主戦場になります。
開示要否の起点はここ①発行体区分 × ②行為類型 × ③相手方人数
金商法上の手続を判断する際は、次の3点を順序立てて確認します。
- 発行体の区分
- 非開示会社(有価証券報告書を提出していない会社)
- 開示会社(有価証券報告書を提出している会社)
- 行為の類型
- 募集(新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘)
- 売出し(既発行有価証券の売付け/買付けの申込みの勧誘)
※ 自己株式の処分は「募集」に該当します。
- 相手方の人数カウント
- 50名以上を相手方として勧誘するかどうかが、開示要否を大きく左右します(「所有者数」ではなく勧誘の相手方数である点が実務の落とし穴です)。
この3要素の組合せで、有価証券届出書(または通知書)の提出要否が分かれます。実務では、複数回・複数者への勧誘を合算すると50名以上になるか、スケジュールや手段(メール・面談・説明会配布資料など)を含めて全体像で評価することが重要です。
目論見書交付義務:1億円以上の「募集」なら交付が前提
第三者割当が金商法上の「募集」に当たり、かつ総額が1億円以上であれば、有価証券届出書と同一内容等を記載した目論見書の交付が必要です。
交付は相手方に対して適時・適切に行う必要があり、勧誘資料と目論見書の内容の齟齬(特に発行価額の根拠・希薄化の影響)がないよう社内レビュー体制を整えるのが実務ポイントです。
届出書・通知書の提出実務の要点
- 提出先・提出書類の型は、発行体区分(開示/非開示)と勧誘の相手方人数(50名以上か否か)で決まります。
- 自己株式の処分=募集の取扱いを誤ると、売出し前提の設計になり不備・差戻しの原因になり得ます。
- 「相手方50名以上」の判断は同一資金調達ラウンドの一体性や短期間での連続勧誘も踏まえた実質評価が前提です(個別の招待・少人数回しでも、全体で50名以上なら注意)。
※ 具体的な提出基準・様式は実務上の定型に則りますが、細目は各社の体制・スケジュールに依存するため、本稿では概念整理にとどめます。
臨時報告書の提出対象、親会社・主要株主の異動が生じたら要注意
第三者割当の結果、親会社の異動または主要株主の異動が生じる場合、臨時報告書の提出が必要です。
とくに支配株主の異動を伴うストラクチャーでは、会社法上の手続(承認要否)と金商法上の臨報提出が連動しやすく、開示タイミングの整合性(取締役会決議・払込期日・株主総会の位置付け)を崩さないことが実務の肝になります。
まとめ
第三者割当増資は、金商法上は原則「募集」として取り扱われ、相手方50名以上の勧誘・1億円以上の募集における目論見書交付・臨時報告書(親会社・主要株主の異動)といった論点が中核になります。自己株式の処分も募集である点を取り違えると、届出・交付・臨報の各手続で整合が崩れます。
社内の実務フローでは、募集/売出しの類型と人数カウントを最初に固定し、開示書類・目論見書・臨報を同一タイムライン上で設計することが、最短での適正処理につながります。

