匿名組合・任意組合・投資事業有限責任組合の比較実務
各組合スキームの基本構造と法的根拠
―どのように異なり、どう使い分けるのか―
はじめに
企業投資やファンド組成の場面では、出資者と運営者との関係を「組合契約」によって構築するスキームが多く用いられます。
その代表が次の3形態です。
| スキーム | 法的根拠 | 主な利用分野 |
|---|---|---|
| 匿名組合 | 商法535条~542条 | 不動産・太陽光・クラウドファンディング等 |
| 任意組合 | 民法667条~676条 | 合弁事業、共同研究、ベンチャー投資等 |
| 投資事業有限責任組合(LPS) | 投資事業有限責任組合法 | ベンチャーキャピタル・PEファンド等 |
いずれも「法人格を持たない」点では共通しますが、
法的性質・出資者の責任・税務処理・登記要否など、実務上の取扱いは大きく異なります。
匿名組合の法的構造
匿名組合契約は商法に定められており、
営業者(事業を行う側)と匿名組合員(出資者)との間で締結されます。
- 匿名組合員は営業者に出資し、営業者は自己の名で事業を行う
- 匿名組合員は事業の損益に応じて分配を受ける
- 対外的には営業者がすべての取引主体となり、匿名組合員の名前は登場しない
したがって、匿名組合員は有限責任を負うものの、事業の経営参加権を持たないのが特徴です。
その匿名性・単層構造のため、クラウドファンディングや再エネファンド等に広く利用されています。
任意組合の法的構造
任意組合は民法の規定に基づき、
複数の当事者が「共同の事業を営むことを目的」として契約するものです。
- 各組合員は無限責任を負う
- 組合財産は組合員の共有となる
- 組合員全員が業務執行権を有し、内部自治が強い
出資だけでなく共同経営や合弁事業にも利用され、
不動産共同開発、共同研究開発、ベンチャー支援等に用いられます。
ただし対外責任を負うため、実務上のリスク管理が最重要となります。
投資事業有限責任組合(LPS)の法的構造
LPSは、投資事業有限責任組合法に基づく特別法上の組合です。
ベンチャーキャピタルやPEファンドのために制度設計されており、
「無限責任組合員(GP)」と「有限責任組合員(LP)」によって構成されます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 無限責任組合員(GP) | 業務執行権を有し、組合の債務について無限責任 |
| 有限責任組合員(LP) | 出資額の範囲でのみ責任を負う |
| 投資対象 | 主に未上場株式・ベンチャー企業株式 |
| 登記 | 設立・変更・清算結了等の登記が必要(管轄:主たる事務所所在地) |
ファンドの透明性が高く、税務上もパススルー課税が認められているため、
プロ投資家向けの代表的スキームとして確立しています。
比較まとめ
| 項目 | 匿名組合 | 任意組合 | LPS |
|---|---|---|---|
| 法的根拠 | 商法 | 民法 | 投資事業有限責任組合法 |
| 責任範囲 | 出資額の範囲(有限) | 無限責任 | LPは有限/GPは無限 |
| 経営参加 | なし | 全員参加 | GPのみ |
| 登記 | 不要 | 不要 | 必要 |
| 税務 | パススルー | パススルー | パススルー(条件付) |
| 主な利用例 | 不動産・クラウドファンディング | 合弁事業・研究開発 | ベンチャー投資・PEファンド |

