匿名組合(TK)によるファンド組成の実務ポイントとは?
なぜ匿名組合(TK)は今も活用されているのか?
匿名組合(TK)は商法第535条に基づく契約形態であり、ファンドビークルとしては歴史が長く、特に不動産や再エネなどの事業ファンド領域において、現在でも広く実務で利用されています。TKは投資家(匿名組合員)と営業者(事業者)との間で締結される二者間契約であり、出資を受けた営業者が自らの名義で事業を行い、その利益の一部を出資者に分配する構造です。
TKの法的特徴とメリット
TKの大きな特徴は以下の3点に集約されます。
- 出資者(匿名組合員)は対外的に表に出ない
- 出資者は有限責任
- 登記・会計監査の義務がない
このため、比較的簡便にファンドビークルとして組成でき、かつ営業者に対する法的義務が明確であることから、制度としての安定性があります。
TKの税務上の留意点
TKスキームにおいて、出資者(個人)に帰属する分配金には20.42%の源泉徴収がなされますが、これは分離課税ではなく総合課税となります。つまり、匿名組合からの収益は「雑所得」として扱われ、他の所得と合算された結果、最高税率で課税される可能性があります。
この点が、分離課税が適用される投資事業有限責任組合(LPS)との大きな違いであり、個人投資家にとってはデメリットとなる場面もあります。
投資家が業務執行に関与しない設計が可能
TKは、事業の運営を営業者が単独で行い、出資者は一切業務に関与しない形態を前提としています。業務執行権の所在が明確なため、匿名組合員全員の同意を要するような煩雑な意思決定が不要であり、営業者による柔軟な運営が可能です。
この点において、全員一致原則などの意思決定構造を持つ有限責任事業組合(LLP)や任意組合と比較しても、実務的な使い勝手は優れています。
TKスキームが適しているファンドの類型
- 不動産証券化スキーム(いわゆるTK-GKスキーム)
- 再生可能エネルギー発電事業ファンド
- 不特法との組合せによる小口化投資スキーム
- 非上場企業のキャッシュフロー型投資
また、GKTK(合同会社+TK)スキームとして活用されることも多く、倒産隔離や分別管理などを意識したファンド構築にも対応しやすい特徴があります。
TKスキームの注意点
- 税務上、出資者が総合課税となる点(特に個人)
- 名目的には営業者の事業収益とされるため、営業者の債務リスクに対しての構造的保全が不可欠
- 投資性を持つ場合には、金融商品取引法上の集団投資スキーム持分として規制対象となる
つまり、ファンド性を持つTKを私募・運用するには、第二種金融商品取引業の登録または適格機関投資家等特例業務の届出が必要になる点は他の組合型ビークルと同様です。
まとめ:TKは「使いこなせば優秀なビークル」
匿名組合は、その簡便性と柔軟性ゆえに、ファンドスキームとして根強く利用され続けています。一方で、税務・法務・会計の設計を慎重に行わなければ、出資者保護や金融商品取引法上の要件を充たせないおそれもあるため、実務においてはスキーム設計に十分な留意が必要です。
特に、以下のような場面ではTKの活用が有力な選択肢となるでしょう。
- 一般の事業会社が不動産・インフラ等への事業ファンドを組成したいとき
- 資金調達手段として小口投資スキームを検討しているとき
- 出資者との関係を簡易・非公開で構築したいとき
制度の特徴を正しく理解し、出資者属性や投資対象に応じた最適なビークルを選択することが、ファンド組成成功の第一歩となります。