外為法における違反時の措置と企業コンプライアンス、勧告・命令・罰則の全体像を整理
外為法違反に対する基本的な考え方
外為法は、外国投資家による投資を制限する法律ではなく、
国の安全や秩序を損なわない範囲で円滑な資本取引を認めるための法制度です。
しかし、対内直接投資等に関して事前届出や事後報告を怠った場合、
行政措置や刑事罰の対象となることがあります。
財務省資料では、「国の安全等を損なうおそれがあると認められる場合」には投資中止・変更命令を行うことができると明記されています。
主な行政措置の種類
外為法第27条・第55条等に基づく行政措置には、次の2つがあります。
| 区分 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| (1)勧告 | 財務大臣または事業所管大臣が、国の安全を損なうおそれのある投資について、内容の変更・中止を勧告できる | 外為法第27条第5項 |
| (2)命令 | 勧告に従わない場合、又は特に必要があると認めるときは、投資の中止・変更命令を発することができる | 外為法第27条第6項 |
命令に違反した場合は刑事罰の対象となります。
無届出投資・不正投資への対応
財務省資料では、外国投資家が無届で出資を行った場合、
国の安全等の観点から問題があるときには、株式売却を含む命令が行われる可能性があると明記されています。
この措置は「事前届出義務違反」だけでなく、
「事後報告義務違反」や「免除条件違反」にも適用されることがあります。
刑事罰の概要
行政措置に加え、一定の重大な違反行為については刑事罰が適用されます。
| 違反類型 | 内容 | 罰則例 |
|---|---|---|
| 命令違反 | 投資中止・変更命令に違反して投資を実行した場合 | 3年以下の懲役または100万円以下の罰金(外為法第70条) |
| 無届出実行 | 届出を行わずに投資を実施した場合 | 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(外為法第69条) |
| 報告義務違反 | 事後報告を怠った場合 | 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(外為法第69条) |
※上記は法律条文上の上限刑を示したものであり、実際の適用は個別事案により異なります。
企業側がとるべき対応
届出義務は本来、外国投資家側にありますが、
受入企業側の協力・確認体制が不十分であった場合、
実務上の信頼性が損なわれるおそれがあります。
特にM&Aや第三者割当増資などの局面では、以下のような対応が求められます。
| 対応項目 | 内容 |
|---|---|
| ① 事業内容の確認 | 自社および子会社の業種が「事前届出業種」や「コア業種」に該当するか確認 |
| ② 投資家属性の確認 | 投資家が外国法人・非居住者等に該当するか把握 |
| ③ 手続フローの共有 | 投資実行前に日本銀行経由で届出が必要かどうかを関係者間で協議 |
| ④ 報告期限管理 | 投資後45日以内の報告期限を内部管理リストで把握 |
| ⑤ 社内研修 | 外為法上の投資規制・免除制度の定期的教育を実施 |
問い合わせ先(一次情報)
制度や手続に関する照会先は以下のとおりです。
- 財務省 国際局 調査課 投資企画審査室
- 関東財務局 理財部 理財第1課
- 日本銀行 国際局 国際収支課 外為法手続グループ
まとめ
外為法の届出制度は、「事前審査」と「事後報告」を中核とするコンプライアンス型制度です。
そのため、形式的な届出漏れであっても、安全保障上の問題とみなされれば行政命令・罰則の対象となります。
企業としては、外国投資受入時における
- 事業内容の定期確認、
- 投資家情報の把握、
- 手続スケジュールの共有
を徹底することが、最も現実的な防止策といえます。

