外為法に基づく対内直接投資審査制度とは?外国投資家による日本企業への投資はなぜ「届出」が必要なのか
制度の目的と背景
外為法における「対内直接投資審査制度」は、
外国投資家による日本企業への投資を経済安全保障の観点から審査する制度です。
財務省は本制度の趣旨を次のように説明しています。
外国投資家による健全な投資を促進しつつ、国の安全等に係る技術が流出することを防ぐため、
一定の業種に該当する企業への投資に対し、事前届出を求めて審査を行うもの。
(財務省国際局資料「外為法に基づく対内直接投資審査制度の趣旨」より)
経済安全保障が重視される現在、
防衛・半導体・エネルギーなどの分野における投資行為は、
単なる経済活動ではなく国家安全保障上の管理対象と位置付けられています。
届出義務を負う「外国投資家」とは
事前届出の義務を負うのは、外為法上の「外国投資家」に該当する者です。
具体的には、次のような主体が該当します。
区分 | 主な例 |
---|---|
個人 | 日本国外に居住する者(日本国籍者を含む) |
法人 | 外国法令に基づき設立された法人・団体 |
関連法人・組合 | 外国法人が50%超出資する日本法人、またはその支配下にあるファンド・組合 |
これらのいずれかに該当する場合、日本企業への一定の投資行為について事前届出が必要となります。
届出対象となる業種
外為法では、「事前届出の必要な業種」が細かく定められています。
代表的な例は以下のとおりです。
分野 | 主な対象例 |
---|---|
防衛・安全保障 | 武器、航空機、宇宙開発、原子力関連製造業等 |
医療・科学 | 感染症対応医薬品、高度管理医療機器製造業 |
エネルギー・インフラ | 電力、ガス、通信、鉄道、放送、上水道等 |
情報処理・通信 | ソフトウェア業、情報サービス関連業 |
素材・機械 | 工作機械、産業用ロボット、永久磁石、蓄電池等 |
事業規模の大小を問わず、また子会社がこれらの業種を営む場合も対象です。
届出が必要となる行為
届出の対象となる行為は、株式取得や役員就任など、企業支配や経営関与につながる行為です。
区分 | 具体例 |
---|---|
株式取得 | 上場会社の1%以上、非上場会社の1株以上の取得 |
役員関与 | 外国投資家または関係者の役員就任への同意 |
事業関与 | 事前届出業種の譲渡・廃止を提案・同意する行為 |
届出手続と審査の流れ
届出は、日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣あてに行う必要があります。
提出から投資実行までの基本的な流れは次のとおりです。
手続段階 | 内容 |
---|---|
届出書提出 | 投資予定日の6か月以内に提出(オンライン可) |
審査期間 | 原則30日以内(最長5か月まで延長可) |
投資可能日 | 審査完了後、日本銀行HPで公示される受理番号を確認 |
事後報告 | 免除制度を利用する場合は実行後45日以内に報告書提出 |
この期間中(30日間)は「投資禁止期間」とされ、審査完了までは投資行為ができません。
免除制度と事後報告義務
(1)免除制度の概要
次の要件をすべて満たす場合、事前届出を省略できる制度(免除制度)が設けられています。
- 投資家が「一般投資家」または「認証SWF等」である
- 投資先企業が「コア業種以外」である
- 投資家が、役員に就任しない・非公開情報にアクセスしないなどの基準を遵守
(2)免除時の報告
免除制度を利用した場合でも、投資実行後45日以内に事後報告書の提出が義務付けられています。
実務対応のポイント
- 届出義務は外国投資家にありますが、発行会社側も確認を怠らないこと。
無届投資の場合、株式売却命令など行政措置の対象となるおそれがあります。 - 事業規模は関係なく、わずかな対象事業があっても届出対象。
子会社レベルの事業でも該当します。 - 届出免除の利用可否は慎重に。
コア業種や外国政府系ファンドは基本的に審査付届出が必要となります。
問い合わせ先
手続に関する相談窓口は以下のとおりです。
- 財務省 国際局 調査課 投資企画審査室
(電話:03-3581-4111 内線69511/メール:gaitame-fdi-1@mof.go.jp) - 日本銀行 国際局 国際収支課 外為法手続グループ
(電話:03-3277-2107)
まとめ
外為法による投資審査制度は、単なる形式的手続ではなく、
「国の安全」と「企業活動の自由」を調整する重要な仕組みです。
外国投資を受け入れる企業は、自社の事業が届出業種に該当するかを常に把握し、
投資家側の届出義務が適正に履行されるよう、関係者と連携することが求められます。