大量保有報告制度の改正「共同保有」とデリバティブ規制の再整理
令和7年7月、金融庁は、令和6年金融商品取引法改正に伴う政令・内閣府令の内容を公表しました。
本改正は令和8年5月1日から施行される予定であり、公開買付制度と並んで「大量保有報告制度」についても、実務上の前提を見直す内容となっています。
本稿では、大量保有報告制度のうち、実務への影響が特に大きいと考えられる点について、制度趣旨を踏まえながら整理します。
大量保有報告制度の位置づけ
大量保有報告制度は、上場会社の株式等を一定割合以上保有することが、経営支配や株価形成に重要な影響を及ぼし得る点を踏まえ、当該情報を市場に開示させるための制度です。
保有割合が5%を超えた投資家は、取得日から5営業日以内に、大量保有報告書を提出する義務を負います。
この報告書には、保有割合だけでなく、取得資金の性質や保有目的など、投資行動の背景に関する情報も含まれます。
制度の本質は、発行会社の行為を規律するものではなく、市場参加者側の情報開示を通じて、市場の透明性を確保する点にあります。
「共同保有」の解釈が見直された背景
従来の整理が抱えていた課題
従来は、複数の投資家が株主としての議決権等を共同して行使する合意をしている場合、原則として「共同保有者」として扱われてきました。
この合意には、明示的なものだけでなく、黙示の合意も含まれるとされていました。
しかし近年、機関投資家による協働エンゲージメントが一般化する中で、企業との対話や意見表明が、どこまで「共同保有」に該当するのかが不明確であるとの指摘が重ねられてきました。
結果として、正当な対話活動であっても、大量保有報告義務の発生を過度に意識せざるを得ない状況が生じていたといえます。
改正後の「共同保有」概念の整理
今回の改正では、一定の条件を満たす場合には、議決権行使に関する合意が存在しても、「共同保有者」に該当しないことが明確化されました。
ポイントは次の三点です。
- 当事者がいずれも金融商品取引業者等であること
- 合意の目的が、発行会社に対する重要な提案行為を行うことではないこと
- 合意の内容が、株主総会等ごとに、対象議案・賛否を特定した個別的な議決権行使に限定されていること
これにより、一般的な情報交換や、抽象的な経営方針に関する意見表明が、直ちに共同保有と評価されるリスクは、制度上明確に後退したと整理できます。
現金決済型デリバティブ取引への制度対応
なぜ対象に含められたのか
これまで、将来現金決済が予定されているエクイティ・デリバティブ取引は、形式上、株式の保有には該当しないとして、大量保有報告制度の適用外とされてきました。
もっとも、実務上は、デリバティブ取引を通じて発行会社に対する影響力を確保しつつ、制度上の開示義務を回避していると評価され得るケースも指摘されていました。
改正後の考え方
改正後は、株式等に係るデリバティブ取引についても、一定の目的を有する場合には、大量保有報告制度の適用対象となります。
重視されるのは、決済方法の形式ではなく、当該ポジションが実質的に株主としての影響力行使と結びついているかどうかです。
制度は、投資家の行動目的や市場への影響に着目する方向へ、一段踏み込んだ整理がなされたといえます。
発行会社・上場準備会社への実務的示唆
大量保有報告書は、発行会社自身が提出するものではありませんが、上場後は株主や投資家から制度に関する問い合わせを受ける場面が現実に生じます。
特に上場初期は、株主構成が流動的になりやすく、報告遅延や解釈の誤りが市場に与える影響も相対的に大きくなります。
そのため、発行会社側としても、大量保有報告制度の基本構造と今回の改正の方向性について、一定の理解を持っておくことが実務上有用です。
今回の改正は、規制の強化というよりも、制度趣旨に即した整理と実態への適合を意識したものと評価できます。
今後は、形式的な保有関係だけでなく、行為の目的や影響を踏まえた判断が、より重要となる局面が増えていくと考えられます。

