大量保有報告制度はどう変わるのか?令和6年金商法改正における実務上の影響整理
令和7年7月4日、金融庁のウェブサイトにおいて、「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に関するパブリックコメントの結果等」が公表されました。
本改正のうち、政令・内閣府令を含む大量保有報告制度の見直しは、令和8年5月1日から施行される予定です。
今回の制度改正は、公開買付制度と並び、大量保有報告制度についても実務上の運用を見直す内容となっています。本稿では、特に「大量保有報告制度」に焦点を当て、制度の趣旨と改正ポイントを整理します。
大量保有報告制度の基本構造を再確認する
大量保有報告制度は、株式等の一定割合以上の保有が、発行会社の経営や市場価格に与える影響が大きいことを前提に、その情報を市場参加者へ迅速に開示することを目的とする制度です。
具体的には、上場会社の株券等について保有割合が5%を超えた場合、当該保有者は「大量保有報告書」を、取得日から5営業日以内に提出しなければならないとされています。
報告書には、保有割合だけでなく、取得資金の内容や保有目的といった、投資判断に影響を与え得る情報の記載が求められます。
この制度は、発行会社による情報開示ではなく、投資家側に直接義務を課す点に特徴があります。
「共同保有者」の考え方はどのように整理されたのか
改正前の問題意識
従来の制度では、複数の保有者が株主としての議決権等を「共同して行使する合意」をしている場合、明示的か黙示的かを問わず、原則として「共同保有者」に該当すると整理されていました。
この枠組みのもとでは、近年重要性が高まっている機関投資家同士の協働エンゲージメントについても、形式的には共同保有と評価され得る余地があり、結果として大量保有報告義務が発生するリスクが不明確であるとの指摘がなされてきました。
改正後の整理内容
今回の改正では、一定の要件を満たす場合には、議決権行使に関する合意があっても「共同保有者」から除外されることが明確化されています。
具体的には、次の要件をすべて満たす場合です。
- 当事者双方が金融商品取引業者等であること
- 発行会社に対する重要提案行為等を目的とした合意ではないこと
- 株主総会等ごとに、対象議案・賛否を特定した「個別の権利行使ごとの合意」に該当すること
この整理により、単なる情報交換や、一般的な経営方針に関する対話が直ちに共同保有と評価されるリスクは、制度上明確に低減されたといえます。
現金決済型エクイティ・デリバティブ取引への対応強化
改正の背景
これまで、将来に現金決済が予定されているエクイティ・デリバティブ取引については、大量保有報告制度の直接の対象外とされてきました。
しかし、デリバティブ取引を通じて実質的な影響力を確保しつつ、形式上は株式保有を回避する事例が問題視されるようになり、制度の潜脱防止が検討課題となっていました。
改正内容の概要
改正後は、株券等に係るデリバティブ取引についても、一定の目的を有する場合には、大量保有報告制度の対象に含まれることとなります。
対象となるのは、例えば以下のような目的を有するケースです。
- 将来的に当該株式を取得することを予定している場合
- デリバティブのポジションを背景として、発行会社に重要提案行為等を行う場合
- デリバティブの相手方が保有する議決権行使に影響を及ぼすことを目的とする場合
形式的な決済方法ではなく、実質的な影響力の有無に着目する整理が制度上明示された点が、今回の改正の特徴といえます。
その他の制度調整と実務への示唆
このほか、みなし共同保有者の整理や、大量保有報告書の記載事項の明確化など、細部にわたる制度整備も行われています。
特に実務上は、報告義務の有無そのものだけでなく、「どのような行為が義務発生につながり得るのか」を事前に整理しておくことが、これまで以上に重要となります。
上場準備会社・発行会社側の留意点
大量保有報告書は投資家が提出する書類ですが、上場後は発行会社として株主から制度内容について照会を受ける場面も想定されます。
また、上場直後は、ベンチャーキャピタル、事業会社、役員関係者などの持株比率が変動しやすく、報告遅延や記載不備が市場に与える影響も相対的に大きくなります。
そのため、上場準備段階から、大量保有報告制度の基本構造と改正点について理解を深め、関係者に対して適切な情報共有を行っておくことが、実務対応として求められます。
本改正は、制度の厳格化というよりも、実態に即した整理と透明性確保を目的とする側面が強い内容といえます。
今後は、形式的な線引きだけでなく、行為の目的や影響を踏まえた判断が、より一層重要となるでしょう。

