大量保有報告書の「株券等保有割合」はどう計算するか―潜在株式・共同保有を含む計算実務の整理―
大量保有報告制度(金融商品取引法第27条の23)では、株券等保有割合が5%を超えると報告義務が発生します。
この「株券等保有割合」は、単純に発行済株式数に対する保有株式数の割合ではなく、潜在株式や共同保有者分を含めた特殊な計算式が用いられます。
計算方法を誤ると、
- 提出義務の見落とし
- 未提出による課徴金
- 虚偽記載による刑事罰
につながるため、M&Aや投資ファンドの実務では特に注意が必要です。
本稿では、金融商品取引法および関係府令に基づき、株券等保有割合の計算方法を整理します。
計算式の基本構造
株券等保有割合は、次の式で求めます。
(自己+共同保有者が保有する株式数・潜在株式数)
÷(発行済株式総数+自己・共同保有者の潜在株式数)
ここで重要なのは、
潜在株式数を分子・分母ともに加算する点です。
潜在株式とは、
- 新株予約権
- 転換社債(CB)
など、条件を満たすと株式に転換され得る権利を指します。
分子:自己および共同保有者の保有分
分子には、次の合計が入ります。
| 区分 | 含める内容 |
|---|---|
| 株券等 | 現に保有している株式 |
| 潜在株式 | 新株予約権、転換社債など(権利行使前でも加算) |
| 共同保有者分 | 共同保有者が持つ株式・潜在株式 |
共同保有者の範囲は金融商品取引法第27条の23第5項および第27条の26に基づき、実質的に意思決定を共有する者が該当します。
分母:発行済株式総数+潜在株式
分母は「発行済株式総数」だけではありません。
発行済株式総数
+自己および共同保有者が保有する潜在株式数
ここが誤りやすいポイントです。
市場全体の潜在株式数を分母に入れる必要はなく、
自己と共同保有者が保有する潜在株だけを加算します。
潜在株式を含める理由
潜在株式を分子・分母に加える理由は、
実質的な影響力を反映するためです。
行使前の新株予約権を大量に保有している場合でも、
- 実質的に発行会社の支配に影響を与え得る
- 市場にとって重要な情報である
という考え方に基づきます。
実務上よくある計算ミス
金融庁も注意喚起している典型的な誤りは次のとおりです。
(1)潜在株式を分母に入れ忘れる
→保有割合が本来より高く算出されてしまう。
(2)共同保有者の潜在株式を反映していない
→5%超の判定が誤り、未提出リスク。
(3)市場全体の潜在株式を分母に加えてしまう
→必要以上に保有割合が低くなり、虚偽記載となる可能性。
(4)自己株式(会社の自己保有株式)を分母に含めてしまう
→発行済株式総数に含まれないため誤り。
M&A実務での注意点
M&Aの局面では、以下の事情から保有割合が変動しやすく、提出義務の発生日が突然到来するケースがあります。
- TOB前の事前取得(いわゆる“予備的取得”)
- 複数SPC・複数ファンドでの共同投資
- 新株予約権付与・転換請求の多発
- 出資比率調整のための段階的取得
そのため、保有割合の計算は取引ごとに都度確認し、
5%・1%のラインを超える前後で迅速に対応する体制が必要です。
まとめ
- 株券等保有割合は「潜在株式」と「共同保有者」を含む特殊な計算式
- 潜在株式は分子・分母ともに加算する
- 共同保有者の範囲を誤ると計算そのものが成立しない
- 5%超で大量保有報告書、1%超の増減で変更報告書
- 誤計算は課徴金・刑事罰につながるため専門的確認が重要
参考条文
- 金融商品取引法第27条の23(大量保有報告書)
- 同法第27条の25(変更報告書)
- 同法第27条の26(共同保有)
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