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    契約締結前の情報提供義務(金融商品取引法37条の3)を「作って渡す」だけで終わらせない実務設計

    金融商品取引業者等は、金融商品取引契約を締結する前に、顧客へ「契約締結前の情報」を提供しなければなりません(いわゆる契約締結前交付書面に相当)。根拠条文は金融商品取引法37条の3です。
    そして令和5年改正の流れの中で、デジタル提供(電磁的方法)や説明義務の考え方が整理され、2025年4月1日施行・適用とされています。

    ここで現場がつまずくのは、「ひな型を用意してPDFで送ったからOK」という発想になりやすい点です。近時の金融庁の整理は、タイミング・告知の実効性・説明の双方向性(体制)を強く意識しています。

    「締結する前」とは、いつのことですか

    金商法37条の3は「あらかじめ」提供と書きますが、では契約締結の何日前でもよいのか。ここが実務上の難所です。

    金融庁は、個別事例判断を前提にしつつ、たとえば1年以内であっても情報提供と契約締結日が大きく離れる場合は、契約締結と近接する時点で改めて情報提供すべき、という考え方を明示しています。
    つまり「契約締結前に一度渡してある」だけでは安全ではなく、契約に“近い”情報提供(必要に応じた再交付・再提供)まで含めて運用設計するのが堅いです。

    どの方法で提供できますか(書面/デジタル)

    提供方法の骨格は、内閣府令(金融商品取引業等に関する内閣府令)側で具体化されています。
    実務は概ね次の3類型で整理すると運用しやすいです(※細目や例外は取引類型により変動します)。

    類型方式実務の要点典型的な落とし穴
    1紙(書面交付)交付事実を立証できる運用(交付記録、写し保管)“渡したつもり”で証跡が残っていない
    2デジタル(承諾型)事前に方式・内容を示し承諾を取る設計(同意UI含む)同意の取得が抽象的/どの書面か特定できない設計
    3デジタル(告知型)「告知」が実効的であることが核心Web掲載だけで済ませている

    特に告知型については、単にウェブサイト上で周知するだけでは、顧客が告知内容を確実に認識できない可能性があるため、告知があったと認められないと明確に述べています。
    要するに、告知は「掲載した」ではなく「顧客が認識できる設計」が必要、という発想になります。

    デジタル提供で見落としがちな「表示・レイアウト」論点

    契約締結前交付書面(相当情報)は、文字サイズや重要事項の強調など、形式面の要求が問題になります。金融庁も、電磁的方法で提供する場合でも、府令79条3項~5項の「記載方法」に則すべき旨を述べ、Web画面表示の場合の考え方(設定の工夫等)に言及しています。

    現場では次が事故ポイントです。

    • 重要事項の強調(文字サイズ、枠線等)をUI都合で落とす
    • スマホ表示で重要事項が埋もれる(スクロール前提で“見落とす設計”)
    • PDF添付ではなくメッセージ本文に貼り付けてしまい、形式要件の再現が崩れる

    結局、システム都合ではなく法令要件を満たす表示仕様を先に決めるのが近道です。

    「情報提供」と「説明」は別物です(双方向性がキーワード)

    2023年改正の流れで、金商法37条の3第2項として、顧客属性に照らした説明義務が明文化されました。
    金融庁は、説明義務について「理解したことを形式的に確認する義務づけではない」としつつも、基本的には双方向的にやりとりしながら説明を受けられる方法が望ましいと述べています。

    動画を使うこと自体は排除されませんが、その場合でも「問合せがあったら口頭説明できる態勢」や「動画閲覧完了後でないと申込みできない設計」など、双方向性に近づける工夫が例示されています。
    さらに、AIチャットボットについても、FAQ的な回答を用意することは妨げない一方、それだけで疑問が解消されない可能性があるため、双方向の説明を受けられる態勢整備が望ましいと整理されています。

    特定投資家なら免除、一般投資家なら原則必要

    契約締結前交付書面(相当)の位置づけや、府令82条の共通記載事項(租税の概要、クーリングオフの有無等)については、金融庁の解説ページが実務の入口として使いやすいです。
    また、特定投資家制度との関係(特定投資家なら適用除外があり得る)は、取引設計上の重要論点になります。

    適格機関投資家等特例業務(いわゆるプロ向けファンド)でも「作成が先」です

    「プロ向けだから書面は軽いはず」という誤解は根強いのですが、金融庁は、適格機関投資家等特例業務について、届出前に行為規制を確認し、契約締結前に出資者に交付する書面をあらかじめ作成するなど、遵守に必要な措置を講じるよう明示しています(行為規制の例示として37条の3を含めています)。

    実務チェックリスト(最小構成)

    1. 取引類型の確定(第一種/第二種/投資助言・代理/投資一任/電子募集取扱等)
    2. 対象顧客の区分(一般投資家か、特定投資家か)
    3. 提供方法の決定(紙/デジタル承諾型/デジタル告知型)
    4. 告知型なら「顧客が確実に認識できる導線」を実装(Web掲載のみは避ける)
    5. 表示仕様の確定(重要事項の強調、文字サイズ、画面遷移・スクロール設計)
    6. 説明体制(双方向の問合せ導線、対応者、ログ・録音、動画閲覧完了後の申込み制御等)
    7. 「契約に近接した時点」での再提供が必要になる場面をルール化(更新・変更・期間経過)

    よくある質問(FAQ)

    Q1. 契約締結前の情報提供は、契約のかなり前に渡しておけば足りますか

    足りない可能性があります。金融庁は、たとえ1年以内でも、情報提供と契約締結日が大きく離れる場合は、契約締結に近接した時点で改めて情報提供すべき、という考え方を示しています。

    Q2. 告知型デジタル提供は、Webサイトに載せて「周知」すればOKですか

    難しいです。単にウェブサイト上で周知するのみでは、顧客が告知内容を確実に認識できない可能性があるため、告知があったとは認められない、という整理があります。

    Q3. AIチャットボットで説明義務の要件を満たせますか

    チャットボットで想定QAを提示すること自体は妨げられませんが、それだけで疑問が解消されない場合があるため、顧客が双方向的に説明を受けられる態勢整備が望ましいとされています。