有価証券報告書等の開示審査に関する留意事項
審査の基本的考え方(第Ⅱ部2-1)
金融庁は、有価証券報告書・四半期報告書・臨時報告書等の開示審査について、
その目的を「投資者が適切な情報を得て投資判断を行うために必要な情報の適正性・完全性を確保すること」と明示しています。
審査は、発行体の自主的開示責任を前提に、行政がその適正性を確認する補完的な仕組みと位置づけられています。
審査の対象書類と範囲(第Ⅱ部2-2)
開示審査の対象となる主な書類は以下のとおりです。
| 区分 | 書類名 | 法的根拠 |
|---|---|---|
| 定期開示 | 有価証券報告書・四半期報告書 | 金融商品取引法第24条、第24条の4の7 |
| 随時開示 | 臨時報告書 | 同法第24条の5第4項 |
| 特別開示 | 内閣府令に基づく提出書類 | 関連省令規定による |
金融庁は、これらの書類を通じて、発行体の経営・財務状況・事業リスクが適切に投資者に伝達されているかを確認します。
審査の着眼点(第Ⅱ部2-3)
開示審査における基本的な確認事項は次のとおりとされています。
- 虚偽記載・誤解を招く表現の有無
- 会計情報と非財務情報の整合性
- 注記・脚注による情報補足の妥当性
- 重要性のある情報の欠落がないか
金融庁は、単なる形式審査にとどまらず、
「投資者が誤認しないかどうか」を実質的判断基準として重視すると明記しています。
訂正報告書の提出(第Ⅱ部2-4)
審査の結果、開示内容に不備が認められた場合は、
訂正報告書の提出を求めることがあります。
特に以下のような場合が対象です。
- 有価証券報告書において重要な虚偽記載が判明したとき
- 決算訂正等により開示済みの会計数値が変動する場合
- 継続開示会社が、同様の誤りを繰り返す場合
訂正報告書は、金融商品取引法第24条の7に基づき提出され、
その内容はEDINETを通じて公衆縦覧に供されます。
開示書類の再提出・不備対応(第Ⅱ部2-5)
軽微な誤り(単位・注記の欠落・誤字等)の場合は、
再提出に代えて補足説明を求めることもあるとされています。
一方で、虚偽記載や重大な記載漏れの場合は、
訂正報告書の提出を義務付けるほか、必要に応じて行政指導または課徴金処分の対象となる旨が記載されています。
臨時報告書に関する留意点(第Ⅱ部2-6)
臨時報告書については、投資者保護の観点から「重要事実」の開示漏れを防ぐため、
以下のような点に留意するとされています。
- 発行体において、重要な事実の認識があった時点で提出義務が発生する。
- 提出遅延や漏れがある場合、課徴金制度の適用対象となり得る。
- 提出基準は、「投資判断に重大な影響を及ぼす情報」を基準として判断する。
開示審査と事前相談(第Ⅱ部2-7)
審査の過程で、発行体が疑義を感じる場合には、
財務局との間で「事前相談制度」を活用できると明示されています。
事前相談の目的は、開示内容の適正性に関する確認であり、
相談は提出前に行うことが望ましいとされています。
この制度は、開示の透明性を高めるための実務的手段として運用されています。
開示制度の適正運用(第Ⅱ部2-8)
金融庁は、開示制度の運用にあたり次の方針を掲げています。
- 発行体の自主的開示努力を尊重し、対話的行政を推進する。
- 審査結果や事例を積極的に共有し、開示の予見可能性を高める。
- 形式的チェックに終わらせず、投資者にとっての有用性を最優先する。
まとめ
第Ⅱ部では、
- 発行体の自己責任を前提とした審査の実質重視
- 訂正報告書制度による透明性確保
- 臨時報告書における「重要事実」概念の厳格運用
が明確に示されています。
開示行政の目的は、「形式的整合性」よりも「投資者の正確な理解」に重きを置く点にあり、
これが金融庁の一貫した基本姿勢とされています。

