有限責任事業組合(LLP)はファンド組成に利用できるのか?
LLPを利用した資金調達に誤解が多い理由
ファンド組成に関するご相談の中で、有限責任事業組合(LLP)を活用すれば、金融商品取引業の登録が不要になるのではないかというお問い合わせをいただくことがあります。しかしながら、LLPの仕組みを正確に理解しておくことは、コンプライアンス上、極めて重要です。
LLPも「ファンド」に該当する法的位置づけ
金融商品取引法第2条第2項第5号では、いわゆる集団投資スキーム持分の定義において、明確に「有限責任事業組合契約に基づく権利」が含まれるとされています。したがって、LLPの形式を採っていたとしても、出資対象事業の利益分配等を行うスキームであれば、同法上の「ファンド」として規制対象となります。
出資者の業務関与が前提
同法施行令により、すべての出資者が対象事業に常時従事するか、継続上不可欠な専門性を発揮して関与することが除外要件として定められています。この要件を満たさない場合、LLPであってもファンド規制を受けることになります。
また、LLP法上も、組合員は業務執行権・義務を有しており、出資のみで事業には関与しないという形態は許容されていません。
実務上、LLPをファンドに使うのは非現実的
こうした制度的制約を踏まえると、LLPを「ファンドのビークル」として採用することは、法律構造上きわめて困難です。実際に、令和6年7月時点で、適格機関投資家等特例業務届出者が組成したLLPファンドは全国でわずか4件に過ぎません。
LLPの法制度が想定していた本来の用途
LLP法の立法趣旨は、ファンドではなく、構成員が共同して事業を遂行することを前提としています。意思決定の原則は全員一致、業務執行にも各組合員が関与することが求められ、出資者に対するリターンの分配を目的とするような受動的な出資スキームにはなじみません。
例外的な活用法としての「GP構造」
もっとも、一定の要件を満たす場合には、LLPをファンドスキームの「GP(無限責任組合員)」として活用する事例もあります。投資事業有限責任組合(LPS)等のスキームで、キャリード・インタレストの取り扱いを個人課税の枠組みで整理するため、LLPをGPとして設置する例です。
ただし、税務・金融商品取引法上の整理、投資家との関係、責任リスクの設計など、高度な実務運用が必要です。
LLPがファンドビークルとして使われない現実
制度導入当初、構成員課税ヴィークルとして一定の注目を集めたLLPですが、令和に入って以降、設立数は急激に減少しており、経済産業省の統計でも活用実績は先細りを続けています。制度として存在していても、使われていないのが現実です。
実務者としての結論
有限責任事業組合という制度は、あくまで共同事業の実施に適した形態であり、ファンド的な使い方には制度趣旨上なじみません。法的な制約、税務面の整理、ファンド業規制との関係からしても、LLPでのファンド組成は推奨されるものではなく、事実上の選択肢とはなりえないと考えられます。