特定目的会社(TMK)の実務と資産流動化スキームにおける役割
特定目的会社(TMK:Tokutei Mokuteki Kaisha)は、資産流動化法に基づいて設立される特別目的法人(SPV)であり、日本の証券化・不動産取引の現場で広く利用されています。
TMKが活用されるのは、不動産を含む特定資産を切り出し、キャッシュフローを裏付けとして資金調達を行うためのプラットフォームとして非常に適しているためです。
本稿では、TMKの法位置づけ、他のSPVとの違い、優先出資・不動産取得などの主要な実務ポイントを金融専門家の視点で解説します。
1.TMKが利用される背景
TMKは、資産流動化スキームにおける「資産保有ビークル」として設計されています。
利用される主な理由は次のとおりです。
- 資産流動化計画(ALP)に基づくガバナンスの明確化
- 投資家向けスキーム設計にフィットした法的枠組み
- 有限責任の確保と、資産・負債の切り分けの容易さ
- 不動産・証券化商品への適用性が高い
同じSPVでも、GK(合同会社)や匿名組合と比べ、法定の透明性・決算公告義務等により投資家保護が厚い点がTMKの特徴です。
2.TMKと他の法人形態の違い
TMKは通常の株式会社・合同会社と制度設計が大きく異なります。
提示資料の比較表の内容を整理すると、主な相違点は以下のとおりです。
(1)TMKの独自性
- 出資者の責任は有限
- 役員任期の制限なし
- 決算公告義務あり
- 業務執行機関は取締役
- 目的は「特定資産の流動化」に限定される(一般事業は不可)
(2)株式会社・合同会社との比較
- 株式会社:汎用的な営利法人、役員任期・株主総会等の規律が厳格
- 合同会社:小規模ビジネスに向く柔軟性重視型
- TMK:証券化・金融取引に特化した法人であり、資産流動化計画(ALP)に左右される点が決定的に異なる
3.TMKの基本プロセス
TMKを活用した流動化スキームでは、資産の切り出しから資金調達までのプロセスが法令で明確に規律されています。
主な流れは以下です。
(1)設立
- 資産流動化計画(ALP)を基礎に設立
- 定款には特定資産の種類・優先出資等を明記
- 会計監査人を置くケースが一般的
(2)資産取得
取得形態は案件によって異なります。
- 不動産を直接取得するケース
→ オリジネーターからTMKへ所有権移転 - 信託受益権として取得するケース
→ 受益権譲渡でスキームを組成 - 取得後の税制優遇の適用
→ 登録免許税の軽減措置(別途証明書の提出が必要)
(3)優先出資の発行
TMKで特有なのが、
優先出資の発行は“登記が効力発生要件”であること(流動化法42条)。
そのため、
- 払込完了
- 保管証明書取得
- 登記申請
の順序が必須となります。
資金調達のスケジュール設定において、銀行の払込手続き(3営業日前が多い)と登記タイミングが制約条件となる点が金融実務上重要です。
(4)決算・公告
一般会社に比べ、決算公告義務・情報開示義務が強く求められます。
(5)終了・解散
スキーム終了時は、以下の事由に基づきTMKを解散します。
- 資産流動化計画に定めた終了条件の充足
- 特定資産の売却・回収の完了
- 定款に定める終了事由
その後、清算手続・登記等を経て法人としての活動を終了します。
4.TMKを活用した資産流動化の実務上の要点
金融コンサルティングの視点では、以下の点がプロジェクト成功の鍵となります。
1.スキーム設計はALP中心
TMKはALPによって活動が拘束されるため、最初の計画書がスキームの“絶対座標”となります。
2.資産取得手法によって税コストが大きく変わる
不動産直接取得/受益権取得では、税務・登記費用が異なる。
取得後の免税措置を前提にする場合、証明書・添付書類の準備が必須。
3.優先出資のスケジュール管理が難所
銀行の払込事務、保管証明書のタイミング、登記手続が連動するため、金融・法務・銀行の3者連携が不可欠。
4.解散・清算時もスキーム特有の事務が発生
通常の法人とは異なり、ALP終了イベントの発生がトリガーとなる。
まとめ
- TMKは日本の証券化スキームで不可欠なSPVであり、資産流動化法に基づいて設計されている
- 株式会社や合同会社とは根本構造が異なり、ALPが活動の中心
- 不動産取得・優先出資発行・税務証明申請など、金融プロジェクト特有の手続が多い
- スキーム成否は、ALP・資産取得スキーム・銀行手続・登記スケジュールの連動管理にかかっている

