有価証券届出書の提出タイミングと審査対応の実務
第三者割当増資では、「取締役会決議」と「有価証券届出書の提出」が
必ずしも順番どおりに進むとは限りません。届出書の審査期間を確保する必要があるため、
実務では両者を並行して進めるケースが多くなります。
本稿では、
- いつ、どちらを先に動かすのが実務的か
- 審査対応の実務ポイントなど
の2点を整理いたします。
時系列の原則と実務のずれ
会社法上は、取締役会決議によって発行条件を確定させ、
その内容に基づいて届出書を提出するのが建前となります。
しかし、財務局での審査期間(原則15日間)を考慮すると、
決議後に届出書を作り始めては間に合わないのが実務です。
そのため、実務では次のような進行が一般的になります。
項目 | 内容 | 補足 |
---|---|---|
届出書ドラフト作成 | 決議前に開始します | 発行条件・評価・資金使途を“案”として記載します |
財務局事前相談 | ドラフト段階で実施します | 文言や構成の修正が入ることがあります |
決議確定 | 審査結果を踏まえて条件を最終化します | 届出書と整合を取ります |
届出書正式提出 | 同日付で提出します | 「同日決議」表現で整合を取ることが多いです |
審査対応の実務ポイント
届出書の審査過程では、
・資金使途の具体性(定量的な裏付けがあるか)
・発行価額と評価根拠の整合性
・発行条件の合理性説明(特に有利発行該当性)
などが重点的に確認されます。
アドバイザーは、会計士・顧問弁護士・企業担当者間で修正箇所を統一し、
「Ⅱの部」「契約書」「議事録」間の表現統一を図ることが求められます。
わずかな数字や用語の差異も、
修正届や再決議の要因となるため注意が必要です。
決議・届出・開示のタイムライン管理
正式な時系列の整理は次のとおりです。
工程 | 主体 | 主な確認事項 |
---|---|---|
ドラフト事前相談 | 会社・会計士・アドバイザー | 財務局コメントの取得 |
取締役会決議 | 会社 | 発行条件の正式決定 |
有価証券届出書正式提出 | 会社 | 決議内容を反映してEDINET提出 |
効力発生 | 財務局 | 提出日から15日経過後に発行可能 |
払込・適時開示・登記 | 各担当部門 | 条件の整合性確認 |
まとめ
有価証券届出書は、形式上・法令上ともに取締役会決議後に正式提出されるものとなります。
ただし、実務上は届出書ドラフトを用いた財務局との事前協議を経て、
決議・届出の双方をほぼ同時に進行させる工程設計が求められます。
届出・開示・登記はすべて一連の流れとして動くため、
各フェーズの整合を正確に保つことが、増資支援におけるアドバイザーの最重要任務となります。