行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)とは?

2024/06/24その他

行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)とは?

 MSワラント(Moving Strike Warrant)は、行使価額修正条項が付いた新株予約権です。通常の新株予約権とは異なり、行使価額が市場株価に応じて変動するため、行使がしやすくなります。MSワラントは、企業が柔軟な資金調達を行うための手段として利用されます。

  • 通常の新株予約権

あらかじめ定められた行使価額で新株を取得できる権利です。行使価額が固定されているため、株価が下落すると行使されにくくなります。

  • MSワラント

 MSワラントは、新株予約権の一種であり、法令上の明確な定義は存在しませんが、一般的には行使価額修正条項が付されており、行使価額が市場株価を基準に数%ディスカウントされる形で修正されるものです。

 取引所規則(具体的には、東京証券取引所の有価証券上場規程等)では、CB等およびMSCB等の定義が設けられています。CB等とは、上場会社が第三者割当により発行する新株予約権、新株予約権付社債、取得請求権付株式を指します。一方、MSCB等は、これらCB等のうち、新株予約権の行使価額が半年に一度以上の頻度で市場株価に基づき修正される条件が付されているものを指します(有価証券上場規程第410条・有価証券上場規程施行規則第411条第2項参照)。

 MSワラントもMSCB等に該当し、同様の規制を受けます。発行手続きの流れは以下の通りです。発行会社は証券会社、ファンド、事業会社等の特定の第三者(割当先)に対して有償でMSワラントを発行します。割当先は、通常1~3年の行使期間中に複数回にわたってMSワラントを行使し、株式を取得します。この過程で発行会社は資金調達を行います。

  • 通常の新株予約権との違い

 固定行使価額の新株予約権では、行使価額は発行時点の市場株価を基準に固定されることが多いですが、MSワラントでは行使価額が変動し、行使時前日の市場株価から数%ディスカウントされた金額が設定されます。そのため、割当先は市場株価より低い金額で株式を取得できる仕組みとなっています。

 行使価額が市場株価に連動するため、新株予約権の行使が進みやすくなりますが、株式の希薄化や空売りによる株価下落など、短期的なデメリットも存在します。行使停止要請条項や行使指定条項を活用することで、発行企業はこれらのリスクをコントロールしやすくなります。

 さらに、行使価額が市場株価に比べて過度に低額にならないよう、行使価額の下限が設定されることが一般的です。

  • 行使停止要請条項と行使指定条項

行使停止要請条項:

発行企業が特定の条件や期間において、新株予約権の行使を一時的に停止することを要請できる条項です。株価の急激な変動時や重要な発表やイベント期間中に行使を停止することで、市場への過度な影響を避けることができます。

行使指定条項:

発行企業が新株予約権の行使に関する具体的な指示を出すことができる条項です。段階的な行使や市場条件に応じた行使のタイミングを指定することで、株価への影響を最小限に抑えることができます。

例えば、「東京証券取引所における当日の終値が下限行使価額の120%に相当する金額を下回っていないこと」という条件を設定したとしましょう。

「下限行使価額」とは、行使価格の下限を設定する価格のことを指します。この価格以下では新株予約権の行使ができないという最低限の価格のことをいいます。

下限行使価額の120%、つまり、下限行使価額の1.2倍に相当する金額を意味します。この条件は次のように読み取れます。

条件の設定: 新株予約権を行使するためには、東京証券取引所での終値が、下限行使価額の120%以上でなければならない。

仮に、下限行使価額が100円と設定されている場合、その120%は120円になります。この場合、東証終値が120円を下回っていない(つまり、120円以上である)ことが新株予約権を行使するための条件となります。

この条件の目的は、株価が一定の水準以上で安定している場合にのみ新株予約権を行使可能とすることで、行使による株式の希薄化リスクを抑えることや、投資家に一定の利益を確保させることを狙ったものということになります。 その他に権利行使期間や情報開示に関する様々な条件を設定をすることが可能で、株価への影響を最小限に抑えることができます。

まとめ

 このようにMSワラントは、柔軟な資金調達手段として利用される一方で、既存株主にとっては注意が必要な手法です。そのため、規制や条件を理解し、適切に運用することが重要となります。

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