適格機関投資家の出資とは?形式的出資が違法とされる理由とリスクを解説
なぜ適格機関投資家の「出資」が制度の根幹なのか?
適格機関投資家等特例業務を使ったファンド運営では、「1名以上の適格機関投資家から出資を受けること」が絶対条件です。この1名がいなければ、その他の49名の特例業務対象投資家を受け入れることもできません。
ところが、過去には「とりあえず誰かに1口だけ出資してもらって条件を満たしたことにする」といった形式的なスキームが多く見られ、行政当局はこれを厳しく取り締まってきました。
形式的出資の典型例
過去に問題視された「見せかけの出資」には、以下のようなパターンが存在しました
- 実体のない投資事業有限責任組合(LPS)を設立し、適格機関投資家として登録
- 上記LPSに数万円だけ形式的な資産を保有させ、他のファンドに1口だけ出資
- 実質的には出資の意志も、投資判断も存在しない
- 出資と引き換えに報酬(紹介料やコンサルフィー)を受け取るケースも多数
これらは「適格機関投資家の体裁を装って、実際はその要件を満たしていない」とされ、金融庁・証券取引等監視委員会による行政処分の対象となってきました。
金融庁による考え方(監督指針・パブリックコメント)
金融庁は、形式的な出資を排除するために、以下のような指針を設けています。
- 「実体のない適格機関投資家(例:機能していないLPS)」は出資者とみなさない
- 出資の対価として実態のない報酬を受け取っている者は除外
- 適格機関投資家がファンドのGP(無限責任組合員)と関係会社である場合も要注意
- 関係会社等からの出資のみで構成されたファンドも「制度趣旨に反する」と評価されうる
特に、ファンド運営者自身が無限責任組合員であるファンドを「適格機関投資家」として別ファンドに出資させるという二重構造スキームは、平成26年以降、明確に否定されています。
実務で求められる出資の「実体」とは?
以下のような出資であれば、「実体ある適格機関投資家からの出資」と評価されやすいとされています。
- 出資額が実質的・継続的な投資判断に基づいている
- 出資の対価としての合理的な見返り(配当・キャリー等)がある
- 出資後にファンドの運営方針・投資先について報告や説明を受けている
- GPやファンド設計者と資本関係がない第三者である
また、金融庁は「10億円以上の有価証券を保有している者」「純資産5億円以上のLPS」等について、届出を受けたうえで適格機関投資家として認めています。
形式的出資でファンドを始めるとどうなるか?
以下のようなリスクがあります。
- 届出が無効とされ、ファンドが違法営業とみなされる
- 金融商品取引法違反により、業務停止命令・社名公表の対象に
- 出資者に対して返金・損害賠償責任が発生する可能性
- 事後的にファンド全体の解消・税務修正が必要になるケースも
形式的な出資で制度を形だけ整えたとしても、ファンド全体のコンプライアンスリスクが非常に高くなるため、実務上は絶対に避けるべき行為です。
まとめ:適格機関投資家の出資は「実質」が問われる
適格機関投資家の存在は、単なる形式要件ではなく、制度の根幹です。資金を実際に拠出し、投資者保護の観点からも健全な出資構造を取ることが、合法的かつ安定的なファンド運営の条件といえます。
「誰でも1口出せばOK」というような発想はすでに通用しない時代です。特例業務を活用するにあたっては、制度の目的を踏まえた真正な投資家との関係構築が求められます。