M&Aにおける「共同保有」とは?大量保有報告制度における実務判断のポイント
上場会社の株式を5%超保有した場合に提出が必要となる大量保有報告書では、「共同保有」の有無が重要な判断要素となります。
共同保有に該当すると、他者の保有分も合算して保有割合を算出するため、単独では5%未満でも報告義務が発生する可能性があります。
本稿では、金融商品取引法第27条の23及び第27条の26に基づき、「共同保有」の定義とM&A実務上の判断ポイントを整理します。
なお、当事務所では共同保有関係の該当性判定および大量保有報告書作成・提出の代行業務を承っております。ぜひご相談ください。
共同保有の法的根拠
金融商品取引法第27条の23第5項では、「共同して株券等を取得し、または譲渡し、若しくは議決権の行使その他株主としての権利の行使に関し合意をした者」を共同保有者と定義しています。
また、同法第27条の26では、共同保有者の関係を詳細に定めています。
この規定により、単に形式上の保有名義が異なる場合であっても、実質的に意思決定を共有していれば共同保有と判断されることがあります。
共同保有に該当する典型的関係
共同保有とみなされる典型的なケースは以下のとおりです。
| 区分 | 共同保有とされる主な関係 |
|---|---|
| (1)共同投資契約 | M&Aにおいて複数の投資家が共同して株式を取得し、譲渡・議決権行使について協議する旨を契約書に定めている場合 |
| (2)親子会社関係 | 親会社が子会社を通じて株式を保有している場合(親会社の意向に基づく一体的な議決権行使が想定されるとき) |
| (3)同一支配下グループ | 同一支配株主を有する複数の子会社が同一銘柄を保有している場合 |
| (4)個人間の一体関係 | 夫婦、親族など、経済的実体が同一で意思決定を共有している場合 |
これらの関係は、契約書上の明示的な合意がなくても、実質的に一体で行動していれば共同保有と判断される可能性があります。
共同保有に該当しないケース
以下のような関係は、通常は共同保有に該当しません。
| 区分 | 非該当の主な例 |
|---|---|
| (1)同一顧客に属する複数ファンド | 投資一任契約に基づき独立して運用されているファンド間(投資判断が独立している場合) |
| (2)単なる助言・助言契約 | 助言を行うにとどまり、議決権行使の合意がないアドバイザー関係 |
| (3)単なる親族間保有 | 経済的独立があり、意思決定を共有していない場合 |
つまり、「名義」や「資本関係」のみではなく、議決権行使に関する合意や実質的な意思決定の共有があるかどうかが判断基準となります。
実務上の確認手順(M&A案件での対応)
M&A取引では、共同保有の該当性を誤ると、5%ルール違反(未提出)や虚偽記載に該当するおそれがあります。
以下の手順で確認することが実務上有効です。
- 投資契約書・株主間契約書の内容確認
―「共同して株式を取得・保有する旨」「議決権の行使方針の協議条項」の有無を確認。 - 資金の出資・拠出関係の確認
―一体的な資金供給があるか、独立した資金管理がなされているか。 - グループ内統制構造の確認
―議決権行使の最終決定権者が同一か否か。 - 報告書提出単位の整理
―共同保有者全体で1件として提出するか、個別提出とするかを決定。
これらの検討を通じて、共同保有の該当性を早期に特定し、報告書の記載整合性を確保することが求められます。
共同保有に関する誤判定リスク
共同保有を過少に判定して報告を怠った場合、金融商品取引法第172条の7・8に基づく課徴金処分の対象となります。
また、虚偽記載があった場合には**第197条の2により刑事罰(5年以下の懲役または500万円以下の罰金)**が科される可能性もあります。
したがって、共同保有該当性の判断は、契約内容・出資構造・意思決定プロセスのすべてを踏まえた総合判断が必要です。
まとめ
- 「共同保有」とは、議決権行使その他の株主行動における合意または実質的連携を意味する
- 名義や資本関係よりも、意思決定の一体性が重視される
- M&A実務では、契約書・資金経路・議決権行使方針を総合的に確認する
- 誤判定は課徴金・刑事罰の対象となるため、専門家による事前確認が有効
参考条文
- 金融商品取引法第27条の23第5項(共同保有者)
- 同法第27条の26(共同保有者の関係)
- 同法第172条の7・8(課徴金)
- 同法第197条の2(刑事罰)
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