ファンドビークルの選択基準とは?TK・LPS・LLPを実務から比較
なぜ「ファンドの器」選びが重要なのか?
ファンドを設計する際、第一歩として決めるべきは「どの法的スキームで組成するか」です。匿名組合(TK)、投資事業有限責任組合(LPS)、有限責任事業組合(LLP)など、いわゆる「組合型ファンドビークル」には複数の選択肢がありますが、それぞれの法的構造・税務・業規制上の扱いには明確な違いがあります。
適切なビークルを選べるかどうかは、調達の実現性・投資家への説明責任・将来の税務処理までを左右する極めて実務的な論点です。
【比較表】主な組合型ファンドの制度上の相違点
実務から見た「選び方」の考え方
比較項目 | 匿名組合(TK) | 投資事業有限責任組合(LPS) | 有限責任事業組合(LLP) |
---|---|---|---|
根拠法 | 商法535条 | 投資事業有限責任組合法 | 有限責任事業組合法 |
法人格 | なし | なし | なし |
登記 | 不要 | 必要 | 必要 |
会計監査 | 不要 | 必要 | 不要 |
出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任(LP)、GPは無限責任 | 有限責任(業務関与要件あり) |
業務執行 | 営業者が単独で行う | GPが業務執行 | 全員が原則業務に関与 |
税務 | 雑所得(総合課税) | パススルー課税(分離課税可) | パススルー課税(事業所得) |
金商法の該当性 | 該当する(集団投資スキーム) | 該当する(要対応) | 該当する(原則として) |
出資者との関係を簡素にしたい → 匿名組合(TK)
匿名組合は営業者と出資者の二者間契約で完結し、意思決定権は営業者側に集中します。業務執行への関与がなく、投資家に煩雑な意思決定を求めずに済む点が最大の利点です。不動産ファンドや再エネ事業など、実体事業のオペレーションが重視される場面に適しています。
※ただし、匿名組合員が個人の場合、分配は「雑所得」として総合課税になる点には留意が必要です。
ベンチャー投資・PE投資等のキャピタルゲイン狙い → 投資事業有限責任組合(LPS)
LPSは、株式・新株予約権・債権などの「特定資産」への投資に限定される一方で、出資者は有限責任、かつ税務上はパススルー課税(20.42%の分離課税)を受けられるため、個人投資家にとっても有利なスキームです。
ベンチャーキャピタル、PEファンドでは実質的に標準のビークルとなっています。
共同事業・共同研究などで少人数の実働パートナーと行う場合 → 有限責任事業組合(LLP)
LLPは、すべての組合員が業務執行に関与することが前提です。このため、いわゆるファンド(出資のみで業務に関与しない受動的投資家)には向いていません。
一方で、少数の実働メンバー間で役割とリスクを限定しながら事業を立ち上げる場面では、柔軟な協働の形として一定の合理性があります。
まとめ
ファンドの法的器は、「誰から、何に投資して、どう運営するか」によって変わります。組合型スキームは金融商品取引法の規制対象にもなりうるため、「簡単に使える」「登録不要」といった表面的な理解で選ぶことは非常に危険です。
組成段階から適切な制度選定を行うことが、出資者の信頼を得て安定的に運営するための出発点となります。