共同保有とは何か?大量保有報告書で最も誤りやすい論点を実務的に整理する
大量保有報告書(5%ルール)の提出が必要になる場面では、単独保有なのか、共同保有なのかという判定が実務上の最大の難所となります。
共同保有に該当するか否かによって、
- 保有割合の計算
- 提出義務者の範囲
- 5%超判定
が全て変わるため、誤った判定を行うと課徴金のリスクすら生じます。
本稿では「共同保有とは何か」「どこまでが共同保有に該当するのか」を整理します。
1 共同保有とは何か
共同保有とは、金融商品取引法に基づき、一定の関係を持つ複数者が“共同して”株式を保有する状態をいいます。
法律上は「共同して株券等の保有又は取得を行う契約その他の合意」がある場合などに共同保有者として扱われます。
ポイントは、
明確な契約書がなくても、実質的に共同して行動していれば共同保有と判断され得る
という点です。
2 共同保有とされる典型例
次のような関係があると、共同保有と判断される可能性が極めて高くなります。
(1)共同で議決権行使を行う合意がある場合
- 同じ条件で経営陣に対して提案行為(役員選任、定款変更等)を行う
- 株主総会に向けて議決権を共同行使する取り決めを行う
(2)株式取得の目的が一致している場合
- 共同で買収を準備しているファンド同士
- 親会社と子会社が同一の戦略で株式取得を行う
(3)名義貸し・形式的な分散保有
- 実質的な保有者が同一で、複数名義に分散させている場合
これらは実務でも典型例として扱われ、財務局の照会が入ることもあります。
3 誤解が多いケース
共同保有の判断は「形式」よりも「実質」で行われるため、次のような誤解が多く見られます。
(1)口頭で合意しただけなら共同保有にはならない?
→ 共同保有になります。
契約書がなくても、行動の内容・目的が一致していれば共同保有と認定されます。
(2)投資一任契約なら共同保有ではない?
→ 一任者と受任者の関係は、保有割合算定で特殊な扱いがあります。
形式的に委任しているだけでも、実質管理者の判断が問われることがあります。
(3)友人・知人同士で買っただけだから共同保有ではない?
→ 議決権行使を相談した時点で共同保有と扱われる可能性があります。
4 共同保有とみなされることの実務的影響
共同保有になると次の影響があります。
- 共同保有者全体の保有割合で5%超を判定
- 共同保有者全員が提出義務者となる
- 記載項目が大幅に増える(資金、目的、構造等)
結果として、
「自分は1%しか持っていないのに提出義務者」
というケースも実務ではしばしば発生します。
5 共同保有に当たるか迷った場合の基本方針
共同保有は“市場に影響する行動”を一体化して捉える制度です。
実務では次の基準で判断すると安全です。
- 議決権行使を誰かと調整していないか
- 取得スキームを複数者で立案していないか
- 最終的な意思決定が一元化されていないか
- 資金提供者と実質保有者が分離していないか
一つでも該当しそうであれば、共同保有の可能性が高まり、届出義務が発生します。
6 まとめ:共同保有は“大量保有報告の落とし穴”
共同保有の該当性は、専門家でも悩むほど複雑です。
形式ではなく実質で判断されるため、意図せず違反状態になる例が多く見られます。
大量保有報告書の実務では、
- 共同保有の成否
- 保有目的の書き方
- 提出期限の管理
が特に重要になります。
当事務所では、
大量保有報告書の作成・提出代行(EDINET登録含む)、共同保有の判定支援
を行っております。
提出義務が発生した疑いがある段階でも、お早めにご相談ください。

