匿名組合の税務、パススルー課税と源泉徴収の実務
匿名組合は事業型ファンドの組成に広く利用されていますが、投資家にとって特に重要なのが税務上の取扱いです。
出資の仕組みや利益分配の方法によって、課税関係は他の法人スキームと大きく異なります。
匿名組合は「パススルー課税」
匿名組合は、投資事業組合やLPS(投資事業有限責任組合)などと同様、構成員課税(パススルー課税)が採用されています。
営業者段階で法人税がかかることはなく、営業者が計上した損益はそのまま出資者に帰属し、各組合員が課税される仕組みです。
そのため、二重課税を回避できる点が匿名組合の大きな特徴です。
利益分配に伴う源泉徴収
営業者が匿名組合員へ分配金を支払う際には、原則として20.42%の源泉徴収が行われます。
- 居住者個人:雑所得として総合課税。確定申告で所得に応じ追徴または還付あり。
- 法人:通常の益金算入。源泉徴収分は法人税額計算で調整される。
- 非居住者・外国法人:原則20.42%の源泉徴収で課税関係が完結。ただし、国内にPE(恒久的施設)がある場合は別途課税。
「源泉徴収をせず、出資者が自己申告で納税する方法は取れないか?」といった質問もありますが、これは不可です。源泉徴収を怠れば、営業者が本来の徴収義務を果たさなかったとして税務署から納付を求められることになります。
課税タイミングと留意点
- 個人投資家:営業者からの利益分配は雑所得に区分。匿名組合員が事業に実質的に関与していると見なされる場合は、事業所得として扱われることもある。
- 法人投資家:実際に分配を受けていなくても、契約上「分配を受けるべき利益」はその事業年度の益金に算入される。
このため、帳簿上の利益が計上された場合、現金分配がほとんどなくても課税だけ先行するケースがあり、キャッシュフロー面で注意が必要です。
税務面を理解せずに組成すると大きなリスク
- 匿名組合は営業者段階で課税されず、出資者が直接課税対象となる
- 分配時には必ず源泉徴収が必要
- 法人投資家は「未分配利益」にも課税される可能性があるため、資金繰り面での備えが不可欠
匿名組合は税務上メリットのある仕組みですが、源泉徴収や申告義務を軽視すると、後に思わぬ負担を抱えるリスクがあります。組成・投資の双方で、専門家のアドバイスを得ながら設計・運用することが重要です。