外国法人が提出すべき「大量保有報告書」
はじめに
日本の上場株式を取得した場合、その保有割合が一定の基準を超えると、「大量保有報告書(5%ルール)」の提出義務が生じます。これは、日本の投資家保護と市場の公正性確保を目的とした制度であり、外国法人であっても例外ではありません。
とりわけ海外ファンドやSPC(特別目的会社)による投資が活発化する昨今、外国法人が日本の上場会社の議決権の5%超を取得した際にどのような手続きが必要かについて、誤解や見落としが散見されます。本稿では、外国法人による大量保有報告の要点と実務上の留意点を解説します。
1. 大量保有報告書制度の概要(5%ルール)
金融商品取引法27条の23に基づき、上場会社等の株式等を発行済株式総数の5%を超えて保有した者は、原則として5営業日以内に「大量保有報告書(変更報告書を含む)」を内閣総理大臣宛てに提出する必要があります。
これは、買占めや敵対的買収などの影響を早期に公表させ、市場の透明性を確保することを目的としています。
2. 外国法人も報告義務の対象となる
日本法人であるか外国法人であるかを問わず、「誰が」保有しているかに関わらず、基準に達すれば報告義務が発生します。
たとえば、ケイマン諸島に設立された投資ファンドであっても、日本の上場会社の株式を一定割合以上取得すれば、金融庁のEDINETを通じての報告が義務付けられます。
実務上よくある外国法人の形態
- ケイマン籍ファンド(Cayman LP)
- ルクセンブルク籍SPV
- 香港やシンガポールに拠点をもつアセットマネジメント会社
- 米国デラウェア州法人
これらの法人が報告義務を怠れば、課徴金等の行政処分の対象となる可能性があります。
3. 提出内容と様式
外国法人が提出する場合でも、基本的には国内法人と同様の様式(様式第27-23号)に従いますが、下記の点に留意が必要です。
(1)報告者の「本店所在地」
本店所在地は、登記上の所在地を英語で記載し、住所表記にはカントリー名も明示します。
(2)提出義務者が複数の場合
投資ファンドのように複数の外国法人が共同保有者となる場合、それぞれが共同提出者として記載される必要があります。
(3)提出手続き
提出は電子開示システム「EDINET」を通じて行いますが、日本国内に拠点がない外国法人が自らEDINETアカウントを保有することは困難な場合があるため、日本国内の代理人(法定代理人または任意代理人)を通じた提出が実務上多くなっています。
4. 報告書提出を怠った場合のリスク
金融商品取引法違反により、最大で課徴金が科されるほか、虚偽記載については刑事罰の対象にもなり得ます。特に昨今、海外ファンドの動向に対して市場の注目が高まっていることから、外国法人であっても「知らなかった」では済まされません。
5. 実務上の注意点
- 間接保有・持分保有による影響関係にも注意
実際に株式を保有していない場合でも、実質的な支配関係がある場合は「共同保有」とみなされる可能性があります。 - 変更報告書の提出基準も同様に適用される
5%超の状態で1%以上の変動があれば、変更報告書の提出が必要です(提出期限は原則5営業日以内)。 - 短期大量取得者に対する迅速開示制度(2営業日ルール)の適用除外を受けるには、一定の条件を満たす必要があります。
おわりに
外国法人による株式投資の際も、日本国内の開示制度に対する理解は欠かせません。特に大量保有報告制度は、企業買収や株主提案といった重要な経営アクションと密接に関連しており、誤った認識のままでは重大な法的リスクに繋がりかねません。
海外から日本市場へ参入する投資家にとって、専門家のサポートのもとでの正確な情報開示と、適時適切な対応が求められています。
必要に応じて、EDINETでの提出手続き代行や、日本法人との共同保有の整理についても、弊所にて対応可能です。お気軽にご相談ください。