大量保有報告書における「保有割合」の計算方法、5%超かどうかを判断するための基礎
大量保有報告書の提出義務は、保有割合が5%を超えた時点で発生します。
しかし、この「保有割合」の計算が実務で最も誤りやすく、多くの投資家・企業担当者が判断に迷うポイントです。
本稿では、金融商品取引法および施行令で定められている基本的な計算方法を整理します。
保有割合とは何か
保有割合とは、発行会社の発行済株式総数に対する保有株券等の割合をいいます。
制度上、報告対象となる「株券等」には以下が含まれます。
- 株式
- 新株予約権証券
- 株式取得請求権付社債などの株式に転換可能な有価証券
つまり、単なる現物株式だけではなく、株式に転換可能な証券も含めて算定する必要があることがポイントです。
保有割合の基本式
法令上、保有割合は次の式で計算します。
保有割合=(保有する株券等の総数)÷(発行済株券等の総数)×100
ここで重要なのは、
「発行済株券の総数」は最新の有価証券報告書等の記載に基づき判断する
という点です。
増資や株式併合などが行われる局面では、この「分母」の変動を正確に把握することが不可欠です。
「総株主の議決権数」ではなく「株券数」で計算する
実務で混同されやすいのが、
- 株主総会で用いられる「議決権数」
- 大量保有報告制度で用いられる「株券数」
の違いです。
大量保有報告書で使用するのは 株券数ベース であり、議決権の有無に関係なく、
すべての発行済株式を分母に含めます。
例えば
議決権のない種類株式が発行されている場合でも、その株数は分母に加えられます。
保有割合の算定で注意が必要なケース
制度上認められている計算方法に照らし、特に注意すべき場面を整理します。
(1)自己株式の取扱い
自己株式は、
- 発行済株式には含まれる
- 大量保有報告の分母には含める
という取扱いになります。
(2)行使可能な新株予約権
新株予約権を保有する場合、
行使可能なものは「株券等」に含まれ、保有割合の計算に加算される
点が重要です。
(3)株式取得請求権付社債等
株式に転換可能な証券は、法令で「株券等」と位置付けられています。
保有割合の計算では、転換後に取得できる株式数を基礎とします。
(4)株式併合・株式分割の直後
株式分割・併合の効力発生日に保有割合が変動するため、
提出期限(5営業日)との関係で漏れが生じやすい領域です。
共同保有者が存在する場合
共同保有に該当する場合、
共同保有者全員の株券等の合計を「保有株券総数」として扱います。
つまり、
「自分の持分は少ないが、共同保有者全体で5%を超える」
という場合にも提出義務が生じます。
共同保有の判定は別稿で詳述したとおり、実質判断であり誤りやすい領域です。
まとめ、保有割合の誤りは提出義務の判断を誤らせる
大量保有報告書に関する違反の多くは、保有割合の計算ミスが原因です。
- 株券等の範囲
- 分母となる発行済株式数
- 新株予約権や社債の取扱い
- 共同保有の合算
- 分割・併合・増資のタイミング
これらを正確に把握しないと、提出義務の判断自体を誤る可能性があります。
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大量保有報告制度の適用が疑われる段階でも、早めにご相談いただくことを推奨します。

