大量保有報告書における「保有目的」とは何か
大量保有報告書では、5%超の株式を保有した者が、その株式をどのような目的で保有しているかを明示することが求められます。
この「保有目的」の記載が、実務では誤解や過少申告につながりやすく、記載誤りは金融庁の照会や法令違反のリスクにつながります。
本稿では、制度上明確に定められている論点のうち、実務で特に重要な「保有目的」の区分を整理します。
保有目的が求められる理由
大量保有報告制度は、市場における影響力の所在とその意図を透明化するための制度です。
単に保有割合を開示するだけでは、投資家が市場にどのような影響を与える可能性があるのかが判断できません。
そのため、法令上、保有目的を
- 純投資であるのか
- 重要提案行為を行う意図があるのか
へ区分して記載することが義務付けられています。
「純投資」とは何か
純投資とは、特定の経営関与を意図せず、株価変動や配当を目的として株式を保有している状態をいいます。
典型的な状況
- 長期保有による投資リターンを期待
- 短期の売買益を目的とした保有
- 経営陣に対する議決権行使は一般的な範囲にとどまる
純投資の場合、外形的にも「経営関与の意図がうかがえない状態」が基本となります。
「重要提案行為」とは何か
重要提案行為とは、株主が会社の経営や支配構造に関する一定の事項について提案を行う意思を持っている場合を指します。
金融商品取引法に基づき、次のような行為を行う意図があるときは重要提案行為に該当します。
例示されている事項(制度上の事実)
- 取締役や監査役の選任・解任
- 配当の方針に関する提案
- 定款変更に関する提案
- 重要な資産の譲渡等に関する提案
- 株式の大量取得による経営支配の変更
- 会社の組織再編(合併・会社分割等)に関する提案
いずれも、会社の経営方針や支配構造に直接影響を与える行為です。
実務で誤解されやすい境界線
(1)「当面は純投資だが、将来は提案するかもしれない」は?
→ 現時点で提案意思がなければ純投資。
ただし、提案を検討し始めた段階で目的変更の届出(変更報告書)が必要です。
(2)議決権行使の際に経営陣の方針に反対するだけで重要提案行為?
→ 通常の議決権行使は重要提案行為に当たりません。
積極的に提案を行う意思があるかが基準です。
(3)他の株主と検討段階で話し合っただけで重要提案行為?
→ 提案する意思を伴う合意がある場合に該当します。
単なる意見交換では足りません。
保有目的の変更と「変更報告書」
保有目的は不変ではなく、後から変更される場合があります。
目的が変わった場合の義務
- 変更が生じた日から5営業日以内に「変更報告書」を提出
- 目的が「純投資 → 重要提案行為」へ変わるケースが最も重大
実務では、アクティビスト対応・増資局面・買収防衛の場面で目的変更が問題になることが多く、判断を誤ると法令違反となる可能性が高まります。
6 まとめ:保有目的は“大量保有報告書の核心部分”
大量保有報告書の提出において、保有割合と並んで重要なのが「保有目的の正確な記載」です。
- 純投資か
- 重要提案行為か
- 将来的な目的変更があり得るか
この判定が誤っていると、課徴金や行政対応のリスクが一気に高まります。
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