大量保有報告書の「保有目的」欄はどう書くべきか
大量保有報告書の「保有目的」欄
大量保有報告書において、投資家やメディアが特に注目するのが「保有目的」の記載です。
保有目的は、投資者保護の観点から、取得者がどのような意図で株式を保有しているのかを市場に明らかにするための情報であり、金融商品取引法第27条の23に基づき記載が求められています。
M&Aや業務提携、TOB前の株式取得などでは、この保有目的の書き方が市場に大きなインパクトを与えることがあります。本稿では、法令・ガイドラインに基づき保有目的欄の基本構造と注意点を整理します。
当事務所では、大量保有報告書の作成・提出代行、保有目的欄の記載方針の策定支援を行っておりますので、ご相談ください。
1.保有目的の位置づけ
大量保有報告書では、株式取得の背景を明確にするため、取得者は必ず「保有の目的」を記載します。
法令上の分類は金融庁ガイドラインに沿っており、代表的な目的は次のように整理されています。
2.金融庁が想定する代表的な保有目的
保有目的は、おおむね以下の区分を用いて記載します(※代表的分類。法令による直接の文言指定はなし)。
| 区分 | 説明 |
|---|---|
| 純投資 | 値上がり益・配当等の取得を目的とするもの。経営参加の意思なし。 |
| 政策投資(業務提携等) | 取引関係の強化を目的とした継続的保有。 |
| 経営参加 | 経営権取得や役員選任・定款変更等の支配目的を伴う保有。 |
| 安定株主対策 | 株価安定・取引関係維持のための保有。 |
| M&A関連取得 | 買収の一環として取得する場合やTOB準備段階。 |
| その他 | 上記に分類されない特殊目的。 |
投資家やファンドの場合は「純投資」として提出する例が多いですが、企業買収(M&A)の局面では、「経営参加」や「M&A関連の取得」として記載する必要がある場合もあります。
3.保有目的の記載で注意すべきポイント
保有目的欄は、意図の隠蔽やミスリードを避けることがポイントです。
(1)実態と異なる目的を記載してはならない
これは虚偽記載となり、
- 金融商品取引法第172条の7・8(課徴金)
- 金融商品取引法第197条の2(刑事罰:5年以下の懲役または500万円以下の罰金)
の対象となります。
(2)経営参加の意思がある場合は明確に記載
取締役の選任要求、定款変更要求、買収提案などを予定している場合、
「経営参加」として記載しなければなりません。
(3)TOB準備段階の株式取得は特に注意
TOB前に株式を買い集める場合、
- 「公開買付けの実施を検討している」
など、開示が必要となる場合があります。
(4)純投資と記載していても、議決権行使の実態で変更が必要になることも
実務では、保有目的の変更が生じた場合、
変更日から5営業日以内に変更報告書を提出する必要があります(法第27条の25)。
4.実務でよくある“誤りやすいケース”
以下は、金融庁も注意喚起している典型例です。
①「純投資」で提出したが、実際には経営陣へ影響力行使を予定していた
→虚偽記載となる可能性。
② M&Aスキームで複数SPCが保有するが、保有目的を統一していない
→共同保有者間で内容が不整合となり、訂正報告の対象になる。
③ 「その他」と記載して内容を曖昧にする
→市場を誤認させる書き方として問題視されることがある。
5.どの分類にも当てはまらない場合
金融庁ガイドラインでは、個別事情を踏まえて「その他」を選択することは否定されていませんが、
その場合は具体的な背景を簡潔に記載する必要があります。
例:
- 組織再編に伴う株式割当を受けたことにより保有
- 資金回収目的で担保として株式を取得した場合
6.まとめ
- 保有目的欄は大量保有報告書の中で最も注目される項目
- 実態に沿った分類を行い、虚偽記載は絶対に避ける
- 経営参加の場合、記載漏れは重大な法令違反
- 目的が変化した場合は速やかに変更報告書が必要
参考条文
- 金融商品取引法第27条の23(大量保有報告書)
- 同法第27条の25(変更報告書)
- 同法第172条の7・8(課徴金)
- 同法第197条の2(刑事罰)
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