大量保有報告書は「誰が5%を持ったか」だけでは足りない、令和6年金商法改正が実務に突きつける新しい判断軸
大量保有報告制度は、形式基準から「実質影響力」の制度へ移行
大量保有報告制度は、長らく
「株券等保有割合が5%を超えたかどうか」
という形式的基準を中心に運用されてきました。
しかし、令和6年金融商品取引法改正および関連政省令の整備により、
同制度は実質的に発行会社へ影響を及ぼし得る者を可視化する制度へと再設計されています。
2026年5月1日以降は、
「5%を超えた事実」以上に、
誰と、どの関係で、どのような意図をもって保有しているのか
が問われることになります。
なぜ大量保有報告制度は見直されたのか
今回の制度改正の背景には、次の2つの問題意識があります。
1つは、
協働エンゲージメントが共同保有と誤解され、萎縮していたこと。
もう1つは、
潜在株式やデリバティブを用いた制度潜脱的な影響力行使が可能であったこと。
この相反する課題を同時に解消するため、
共同保有者の範囲や保有割合の算定方法、記載事項が全面的に見直されました。
共同保有者の判断は「関係性」
夫婦関係は、みなし共同保有から除外
改正前は、夫婦であるというだけで株式保有が合算されていましたが、
改正後は夫婦関係そのものは、みなし共同保有者から除外されています。
形式的な親族関係よりも、
実際の影響力に着目する制度設計へと転換した象徴的な改正です。
一方で、外形的に影響力が推認される関係は明示的に追加
その反面、次のような関係は、新たにみなし共同保有者として整理されました。
- 役員兼任関係(実質的代表権を含む)
- 株式取得を前提とした資金提供関係
- 重要提案行為等を要請・実行する関係
肩書や契約名ではなく、
実質的に株式の取得・保有・議決権行使に影響を及ぼしているか
が判断の軸になります。
潜在株式・デリバティブも検討
現金決済型エクイティ・デリバティブも算入対象に
改正後は、
現物株式を取得しない現金決済型デリバティブであっても、
一定の目的を有する場合には大量保有報告制度の対象となります。
- 株式取得を目的とする場合
- 発行会社への重要提案行為等に用いる場合
- 議決権行使に影響を及ぼす目的がある場合
これらは、実質的な経営影響力を有するものとして評価されます。
転換型株式・潜在株式の計算方法も変更
取得請求権付株式や転換型株式については、
転換前であっても最大となる株式数で保有割合を算定します。
また、潜在株式の重複分は、
分子・分母の双方で控除されることとなり、
計算ロジックそのものが変更されています。
大量保有報告書は「どう書くか」
保有目的は、抽象表現では足りない
改正後は、
「純投資」「重要提案行為等を行うこと」といった形式的記載では不十分です。
特に、
- 重要提案行為等を予定している場合
- 5%超の追加取得を決定または予定している場合
には、取得時期・数量・方法・目的まで含めた具体的記載が求められます。
契約内容の開示範囲も拡大
共同保有者との合意内容や、
デリバティブ契約、議決権制限・役員指名権に関する契約についても、
記載対象が拡張されています。
契約上の守秘義務があっても、
大量保有報告制度上の開示義務が優先される点は、
実務上見落とせないポイントです。
実務上の最大の注意点は「施行日」
改正後制度は、2026年5月1日以後に報告義務が発生するケースから適用されます。
ただし、施行日時点での再計算により、
施行日当日に大量保有報告書または変更報告書の提出義務が発生する可能性がある点には注意が必要です。
大量保有報告は必ず事前検討を
大量保有報告制度は、
単なる開示義務ではなく、市場の公正性を担保する制度です。
改正後は、
- 取得スキーム
- 契約関係
- グループ・役員構成
- デリバティブ取引
を横断的に整理したうえで判断しなければ、
思わぬ不提出・虚偽記載リスクを抱えることになります。
今後の実務においては、
取得前・契約締結前の段階から制度適合性を検討することが、
最も有効なリスク管理となるでしょう。
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