投資事業有限責任組合(LPS)によるファンド組成の実務とは?
LPSはファンドビークルとして一般的に利用されているのか?
結論から申し上げれば、投資事業有限責任組合(LPS)は、有限責任制を備えたファンドビークルとして、ベンチャーキャピタル(VC)やプライベート・エクイティ(PE)等の株式投資ファンドにおいて、現在も広く利用されているスキームです。
LPSにおける責任関係と法的構造
LPSは、投資事業有限責任組合法に基づく法人格なき組合であり、無限責任組合員(GP)と有限責任組合員(LP)によって構成されます。GPが業務執行を担い、LPは出資額を限度とする間接的な関与にとどまることから、投資家保護の観点からも整った構造といえます。
LPSにおける投資対象の限定
LPSは、以下に掲げる「特定資産」に限って投資活動を行うことが法律上義務付けられており、汎用的な事業ビークルとは異なる点に注意が必要です
- 株式、持分、新株予約権等の有価証券
- 金銭債権
- 工業所有権、著作権等の知的財産権
- 信託受益権
- 暗号資産(※未施行)
この制限があるため、不動産や事業そのものへの直接投資には利用できません。
会計監査と登記の義務
LPSは、設立時に登記が必要であり、また毎事業年度において会計監査人による監査が義務付けられています。匿名組合など他のスキームと比較して、制度的な透明性やガバナンスの要求水準が高く、ファンドの信頼性を確保する上では利点とも言えますが、運営上の負担は一定程度生じます。
外国法人への投資制限
LPSによる外国法人への投資は、以下のような法的制限が設けられています。
- 日系以外の外国法人に対する投資については、出資額が出資総額の50%未満に制限される
- 外国法人への貸付は原則不可
- 産業競争力強化法に基づく経済産業大臣の認定を受けた場合のみ、上記制限を超える投資が可能
このため、外国株式を中心としたグローバルファンドをLPSで組成する場合には、特別な許認可が必要となります。
税務上のメリット(パススルー課税)
LPSは、法人課税を課されることなく、構成員課税(パススルー課税)となります。これにより、構成員であるLPが直接課税を受ける形となり、たとえば株式譲渡益であれば20.42%の分離課税により完結します。これは個人投資家にとって大きな税務上のメリットとなりえます。
実務での主な利用ケース
- ベンチャー投資ファンド(スタートアップ投資)
- プライベート・エクイティファンド(中小企業の再生・買収)
- 一定範囲内でのIP(知的財産)ファンド
なお、LPSはファンド組成後の柔軟な運用が可能であり、LPとの関係も匿名組合よりはるかに整備されているため、制度的な安心感が高いという声も多くあります。
注意点:実務上の留意事項
- コスト負担:会計監査や登記費用が継続的に発生する
- 対象資産の限定:事業型投資には適さない
- 外国投資の制限:インバウンド/アウトバウンド戦略には慎重な構成が必要
まとめ
投資事業有限責任組合(LPS)は、金融商品取引法上の「集団投資スキーム」に該当し、第二種金融商品取引業や適格機関投資家等特例業務の届出など、適切な手続が必要です。
その反面、法制度が整備されており、株式投資型のファンドスキームとしては今なお現役の主力ビークルであることに変わりはありません。実務でファンド組成を検討される際には、投資対象、投資家の属性、ガバナンス体制、税務上の利点などを総合的に勘案し、最適なビークルを選定することが求められます。