投資事業有限責任組合(LPS)の実務活用と他スキームとの比較
当事務所では、ベンチャー投資やPEファンドの組成に不可欠な投資事業有限責任組合(LPS)契約の設計支援を行っております。LPSの仕組みを正しく理解しないと、投資家保護や課税関係に大きなリスクが生じます。
1. LPSの基本構造
投資事業有限責任組合(LPS)は、投資事業有限責任組合法に基づいて設立される制度型の組合スキームです。
- GP(無限責任組合員):業務執行を担い、対外的な責任を負う
- LP(有限責任組合員):出資額の範囲でのみ責任を負い、原則として業務執行には関与しない
この二層構造により、投資家は限定責任を確保しつつ、運営はGPに集中させることができます。
2. 匿名組合・任意組合との違い
項目 | LPS | 匿名組合(TK) | 任意組合 |
---|---|---|---|
法源 | LPS法 | 商法535条 | 民法667条以下 |
責任範囲 | GP=無限/LP=有限 | 匿名組合員は外部責任なし | 組合員は無限責任 |
契約形態 | 単一契約(多数当事者型) | 営業者と投資家の相対契約の集合体 | 複数当事者の共同契約 |
主な用途 | VC・PEファンド | 事業型ファンド、不動産証券化 | 不動産共同所有、不特法ファンド |
実務的な位置づけ
- 匿名組合が「事業ファンドのデフォルト」であるのに対し、
- LPSは「ベンチャー・PE領域で制度的安定性を担保するスキーム」と整理されます。
3. 税務上の取扱い
LPSも匿名組合と同様にパススルー課税(構成員課税)が採用されています。
- 個人LP:所得区分は事業所得または雑所得。投資への関与度合いによって取扱いが変わる。
- 法人LP:期末に契約持分に応じた損益を計上。分配の有無にかかわらず課税されるため、キャッシュフロー管理が不可欠。
- 源泉徴収:匿名組合と異なり、LPSからの分配は原則として源泉徴収の対象外。
4. 実務上の留意点
- GPの責任集中
無限責任を負うため、GPの信用力・ガバナンス体制は投資家保護の要。 - LPの関与制限
LPが業務執行に過度に関与すると有限責任が崩れるリスクがある。 - 契約設計の明確化
- 利益分配(優先分配・キャリードインタレスト)
- 組合期間と延長条項
- 報告義務と監査体制
これらを契約段階で明文化しておくことが重要。
まとめ
- LPSは、ベンチャー投資やPEファンドのために設計された制度型スキームであり、投資家の有限責任と運営の安定を両立する。
- 匿名組合や任意組合と比較して、法的安定性・投資家保護の仕組みが整っている点が最大のメリット。
- 実務では、GPの適格性・LPの責任範囲・契約設計を明確にしなければ、責任リスクや課税トラブルに直結する。