種類株式スキームにおける「主要株主の異動」と臨時報告書提出の実務判断
特定株主が保有する普通株式を発行会社が取得し、代わりに同数・同等の権利内容を持つ種類株式(議決権あり)を当該株主に発行するというスキームにおいて、「主要株主の異動」に関する臨時報告書(いわゆる“臨報”)の提出が必要かどうかは、実務上しばしば論点となります。本稿では、金融商品取引法および関連府令、並びに適時開示制度の観点から、実務的な整理を試みます。
金商法・開示府令上の「主要株主の異動」の定義
金融商品取引法および企業内容等開示府令では、主要株主の異動に関する臨時報告書は、以下いずれかの事象が発生した場合に提出が求められます。
- 主要株主(発行済議決権の10%以上保有)が10%未満になる場合
- 主要株主でなかった者が10%以上を保有するに至った場合
ここでの「主要株主」は、株式の種類(普通株式・種類株式)や上場の有無を問わず、議決権比率に基づいて判定されます。
普通株式から種類株式への切替と「異動」該当性
本件のように、普通株式を発行会社が取得・消却し、その代わりに議決権付きの種類株式を発行するスキームでは、株主の議決権割合に実質的な変動がなければ、主要株主の地位も維持されることとなります。したがって、
- 株主が持つ議決権数が変わらない
- 発行済議決権総数に対する割合も同一
という前提が保たれていれば、形式的に株式の種別が変わっても、「異動」には当たらないというのが金商法上の基本的な解釈です。
一時的に10%未満となる場合の留意点
一方で、スキームの執行順序により、仮に一時的に株主の議決権比率が10%未満となるタイミングが発生すれば、その瞬間に「主要株主でなくなった」とみなされ、臨時報告書提出事由が形式的に発生するリスクがあります。
そのため実務では、
- 自己株取得と種類株発行を同日に完結させる
- 同時効力をもって契約上整理する
などの対応により、議決権比率が常に10%以上を維持されるよう設計するのが通例です。
適時開示制度・EDINET実務の位置づけ
東京証券取引所の適時開示制度においても、「主要株主または筆頭株主の異動」は開示対象事由のひとつですが、その定義も金商法上と同様に議決権比率ベースです。したがって、議決権割合が維持される限り、適時開示も不要とされるのが通常です。
また、EDINETで過去に提出された臨時報告書を調査した限りでも、議決権比率が変動しない株式種別変更を理由とする「主要株主異動」の臨報提出事例は見られません。
実務整理と示唆
以上を踏まえると、本件のようなスキームにおいて臨時報告書(主要株主の異動)を提出する必要があるかどうかは、「議決権割合に変動が生じるか否か」に尽きると言ってよいでしょう。
結論として、
- 議決権割合が維持されるようスキーム設計されている場合 → 臨報提出は不要
- 一時的でも10%を下回る場合 → 原則として提出要否が発生する可能性あり
となります。
実務上は、主要株主地位に形式的な変動が生じないよう執行順序・契約条件を調整すること、また念のための適時開示・FAQ対応を含めた開示準備をしておくことが望まれます。

