第三者割当増資に関する法的・実務的留意点の総まとめ
第三者割当増資は、会社が特定の第三者に対して新株を発行し、資金を調達する方法です。
既存株主への配分を伴わないため、会社の資金需要に応じて柔軟に実施できる反面、
既存株主の議決権の希薄化や支配株主の異動、有利発行による不公平など、重大な影響を及ぼす取引でもあります。
このため、第三者割当増資に関しては、会社法・金融商品取引法・税法・取引所規則など、
複数の法体系にまたがる規制が設けられており、それぞれの法令が相互に関係しています。
手続上は会社法が中心となりますが、開示義務や課税、上場会社における投資者保護の観点からも、
他の法制度に基づく厳格なルールが同時に適用されます。
会社法上の留意点
会社法上、第三者割当増資を行う場合には、新株発行(募集株式の発行)または自己株式の処分に関する手続を適正に踏む必要があります。
公開会社では取締役会の決議によって募集事項を決定できますが、
譲渡制限株式を発行する非公開会社では、原則として株主総会の特別決議が必要となります。
また、払込価額が時価より著しく低い場合は「有利発行」に該当し、
その場合も株主総会の特別決議が必要です。
有利発行に関与した取締役は、公正な価格との差額について会社に損害賠償責任を負い、
通謀して引き受けた株主にも差額支払義務が生じます。
さらに、発行手続に瑕疵がある場合には、
株主による差止請求や新株発行無効の訴えが認められています。
手続違反や不公正な発行は、効力発生前であれば差止、発行後であれば無効の訴えの対象となり、
株主保護の観点から厳しく監視されています。
金融商品取引法(金商法)上の留意点
第三者割当増資は、金商法上では「有価証券の募集」に該当します。
発行価額の総額が一定の基準を超える場合、有価証券届出書または有価証券通知書の提出が必要です。
また、総額が1億円以上であり「募集」に該当する場合には、
有価証券届出書と同一内容を記載した目論見書の交付が義務付けられています。
さらに、第三者割当増資の結果として親会社の異動や主要株主の異動が生じた場合には、
臨時報告書を財務局に提出しなければなりません。
これらは、投資者保護および市場の透明性を確保するために設けられた開示制度であり、
手続を怠ると行政上の指導や制裁の対象となるおそれがあります。
税法上の留意点
税務上、第三者割当増資は発行会社にとって資本等取引に該当するため、
有利発行であっても会社側に課税関係は発生しません。
一方、引受人においては、払込価額が時価より著しく低い場合には、
時価と払込価額の差額が課税対象となります。
個人の場合は一時所得(役員・従業員であれば給与所得または退職所得)、
法人の場合は受贈益として扱われます。
したがって、有利発行に該当するかどうかの判断は、税務上も慎重な検討を要します。
取引所規則上の留意点
上場会社が第三者割当を行う場合には、取引所の定める企業行動規範および上場規則が適用されます。
既存株主の議決権が25%以上希薄化する場合や、支配株主の異動を伴う場合には、
独立第三者による意見取得、または株主総会の意思確認手続を行う必要があります。
また、希薄化率が300%を超える場合には、原則として上場廃止基準に該当します。
さらに、支配株主の異動後3年以内にその取引関係の健全性が損なわれた場合にも、
上場廃止の対象とされることがあります。
このように、取引所規則は既存株主や投資者の保護を強く意識した構造となっています。
総括
第三者割当増資は、会社法による発行手続の適正性、金商法による開示義務、
税法上の課税判断、取引所規則による市場秩序維持といった、
複数の法制度が密接に関連する複合的な取引です。
いずれの制度も、既存株主の権利保護・投資者の情報提供・取引の公正性確保を目的としています。
そのため、どれか一つの手続を軽視するだけでも、
増資全体が無効・課税・上場廃止といった重大なリスクを負う可能性があります。
実務上は、資金調達の目的とスケジュールを明確にしたうえで、
会社法・金商法・税法・取引所規則それぞれの観点から手続を整理し、
社内決裁・登記・開示を連動させて進行管理することが重要です。

