適格機関投資家の届出とは?10億円保有・GP型届出の要件と注意点を解説
なぜ「適格機関投資家の届出」が必要なのか?
適格機関投資家等特例業務を使ってファンドを組成するには、最低1名の「適格機関投資家」が出資している必要があります。
この“適格機関投資家”には、法律で列挙された業種(証券会社、投資運用業者、保険会社など)以外にも、条件を満たして自ら届出を行うことで認定される法人・個人が存在します。これがいわゆる「届出型の適格機関投資家」です。
どのような者が届出可能か?
以下に、金融商品取引法第二条第三項および関係内閣府令に基づく届出可能な適格機関投資家の主な要件を示します。
① 有価証券を10億円以上保有している者(法人・個人)
- 法人:直近日における有価証券の保有残高が10億円以上
- 個人:10億円以上かつ証券口座を開設して1年以上経過していること
※ 非上場株式・他のファンド持分も「金融商品取引法上の有価証券」に含まれる
② GP型の届出者(業務執行組合員として届出)
- 投資事業有限責任組合(LPS)などの業務執行組合員(GP)として、組合出資対象事業に関連する有価証券を10億円以上保有していること
- 組合内の他の出資者全員から「同意書」を取得する必要あり
この「GP型届出」は、ファンド運営者自身が適格機関投資家として認定されるために使われるケースが多くありますが、同一スキームで別のファンドに出資する場合には厳格な要件管理が求められます。
有価証券10億円の「評価」はどうやって行う?
基本原則
- 原則:時価評価
- 上場株式 → 市場価格
- 非上場株式 → 純資産法、DCF法、類似業種比準法など
ただし、評価が恣意的であると判断されれば、届出が無効とされる可能性もあるため、評価方法の合理性・記録の保存が求められます。
実務でのポイントと注意点
- 直近日をどう設定するか:届出時に「基準日」を任意に定められるが、決算日・月末・四半期末が望ましい
- 保有額の疎明資料:証券会社の残高報告書、未上場株式の評価計算書等
- グループ会社や親族所有分の合算は原則不可(独立性が重視される)
金融庁の受付タイミングと効力発生
- 届出は毎月末締め
- たとえば「6月末までに届出した場合」は、8月1日から適格機関投資家としての効力が発生
→ ファンド組成のタイミングとの調整が非常に重要になります。
適格機関投資家としての信頼性を高めるには?
- 評価に客観性を持たせる(例:第三者専門家による算定書を添付)
- 届出書類を過不足なく備える(附属明細書や株式名簿も保管)
- 自身が出資するファンドとの利害関係を排除する(形式的出資と誤認されないように)
適格機関投資家の届出は「制度設計の入り口」
特例業務を利用したファンドスキームにおいて、「適格機関投資家として届出できるかどうか」は、組成の成否を分ける重要なポイントです。
特に中小企業の資産管理会社やオーナー経営者にとっては、「10億円ルール」をクリアできるか否かが大きな分岐点になります。評価方法・届出書類・出資先との関係性まで丁寧に設計し、制度趣旨に合致したかたちでの適格機関投資家届出が必要です。