適格機関投資家は最初に出資しなければならない?届出前後の資金受入に潜むリスクとは
なぜ「出資の順番」が問題になるのか?
適格機関投資家等特例業務(以下、特例業務)を使ってファンドを組成する際、最大の注意点のひとつが「出資のタイミング」です。
とくに実務では、「ファンド口座がまだできていないので自社口座に入金させたい」「届出前だが出資内諾を得たので早めに資金を受けたい」など、順番を飛ばしたいというニーズが頻発します。
しかし、これらはいずれも法令上リスクが非常に高く、実際に過去には“順番違反”を理由に行政処分を受けた事例もあります。
出資の正しい順序とは?(基本フロー)
以下が、金融商品取引法上の原則的なファンド設立の流れです。
- 適格機関投資家から出資内諾を取得
- 特例業務の届出を財務局に提出
- 適格機関投資家との契約締結
- ファンド(例:LPS)の登記
- ファンド名義の別段口座開設
- 適格機関投資家が出資金を払い込む
- その後、特例業務対象投資家(最大49名)から出資を受ける
この順番がずれると、制度上の要件を満たしていないとみなされるおそれがあります。
よくある「フライング出資」パターンとリスク
パターン1:届出前に特例業務対象投資家から入金を受けた
→ 金融商品取引業の無登録営業に該当する可能性あり。
パターン2:適格機関投資家よりも先に他の投資家から出資を受けた
→ 適格機関投資家等特例業務の形式的要件を欠くとして、届出が無効とされる可能性あり。
パターン3:ファンド名義の口座が未開設のため、自社口座や関係者名義口座で資金を預かった
→ 金商法上の分別管理義務違反、有価証券等管理業務に該当するおそれあり。
金融庁の見解(パブリックコメントより)
金融庁は、平成19年および28年のパブコメにおいて、「届出前にファンド持分を取得させる行為は私募に該当する」と明示しています。
また、「たとえ最終的に出資が取り消されたとしても、“取得の可能性があった”時点で私募」とみなす可能性があるとしています。
つまり、「まだ正式な契約じゃないから大丈夫」という言い訳は通用しません。
LOI(出資意向表明書)や誓約書は安全か?
「LOIを取っておけば届出前でもOKですか?」という質問もよくありますが、内容によってはLOIすら“私募に該当する勧誘行為”とみなされることがあります。
以下のような内容が含まれている場合は要注意
- 出資額・期日・条件を具体的に記載
- 拘束力があると読める文言(shall出資する、must transfer等)
- 「支払準備ができたら案内する」という金融商品の勧誘的表現
分別管理義務と「預かり金」のリスク
金融商品取引法上、投資家からの出資金は原則としてファンドの別段名義口座で受け取る必要があります。
それにもかかわらず、
- 運営会社名義の口座で出資金を受け取る
- 弁護士・会計事務所等の第三者名義口座をエスクロー代わりに使う
- フライングで自社に入金させておく
といった運用をすると、分別管理義務違反となり、重大な行政処分リスクを招きます。
実際の行政処分事例
関東財務局や証券取引等監視委員会は、以下のような違反を理由に業務停止命令・届出取消を行った事例があります。
- 適格機関投資家の出資前に49名の投資家から資金を受けた
- ファンド口座が未開設のまま、代表者個人口座で資金を預かった
- LOI取得や仮契約を「取得勧誘でない」と主張したが否認された
まとめ:順番を守る=制度の信頼を守ること
適格機関投資家等特例業務は、届出制という簡便な仕組みによって柔軟なファンド組成を可能にしていますが、それだけに順番管理・資金管理が制度の信用を支えています。
「口座ができていないから」「資金繰りの関係で先に払いたい」など、実務上の都合はよく理解されますが、数日早めただけで全体が違法スキームになり得るという点を忘れてはなりません。
ファンド組成では、制度的な“順番”と“書面整備”を徹底することが、最大のリスク回避策です。